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メディアアートリーグ

【第14回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.13 ギリシャと奈良をつなぐヘレニズムの華

2019-01-16

「光と希望のみち」展は、2016年5月にNY国連本部で始まり、7カ国8都市目の巡回先として、神話と東方教会の聖地であるギリシャへやってまいりました。

日希修好通商航海条約締結120周年記念事業キックオフ行事として、ビザンチン・キリスト教博物館で1月16日から開催されます(2月10日まで)。

開催場所のビザンチン・キリスト教博物館は、ギリシャ国会議事堂(旧王宮)やフランスやアメリカ、オーストリアなどの各国大使館、博物館が立ち並ぶアテネのメイン通り、ヴァシリシス・ソフィアス大通りにあります。

この博物館の二階の企画展ギャラリーにて、天平彫刻の最高傑作である東大寺の至宝を中心に、春日大社の舞楽面を加えた奈良の国宝・重要文化財46点が、写真作品として、ギリシャで初めて紹介されます。もとより同博物館では、日本をテーマにした企画展は、1914年の創設以来、初めてのことだそうです。

アテネの聖地の中の「平城京」

世界でも有数のキリスト教博物館の二階に、日本の神仏混交の聖地である「奈良」がすっぽり入ってしまったような、奈良の神秘的かつ聖なる雰囲気が、厳かな静けさを湛えています。

“Road of Light and Hope” at the Byzantine and Christian Museum, Athens

とりわけ大仏さまの作品がかけられた広間からは、アテネで一番高いリカヴィトスの丘上のアギオス・ヨルギオス教会が望まれ、神々を抱く天の玄関にいるような神妙な景観が開けています。

アクロポリスの丘と双璧をなす、標高227mのリカヴィトスの丘は、カラスの凶報により、女神アテナが落とした岩が山となったといわれますが、ギリシャも、日本と同様、多神教による汎神観の脈絡が自然と共に今も息づいているように思えます。

View from the terrace of the Byzantine and Christian Museum

女神アテナの岩山を眺めていると、山自体がご神体の奈良の三輪山を思い出します。頂上のヨルギオス教会は、元伊勢と呼ばれる檜原神社にも思えてきます。

ヘレニズム文化の華

もとより、仏像や仮面も、ギリシャの神々を喜ばす奉納像(アガルマ)を起源とすることから、天平彫刻に反映されたヘレニズム文化の影響を、古代の東西文化の交流の証として紹介する同展は、ギリシャへの「恩返し」のような趣旨を担っています。

ここでは、古代ギリシャの神々も、イエスキリストも、展覧会の中の仏陀も天部も菩薩も、伎楽面も舞楽面も、清らかな空気に包まれて、清涼感と静粛を湛えて共存しているような、平和そのものの調和があることを感じさるを得ません。

Main entrance of the Byzantine and Christian Museum

この調和のとれた平衡状態を目指していくのが「光と希望のみち」展の伝えるメッセージであり、そのモデルは1400年前に「和」を唱えた聖徳太子にさかのぼるものです。

アレクサンダー大王の東方遠征とともに、ヘレニズム文化が中央アジアへ伝搬し、仏像となって中央アジアからカシュガル、コータンまたはクチャ(〜トルファン)、敦煌、長安を通って奈良に伝えれらた「叡智」とは、こうした共栄共存の道に他なりません。

会場であるビザンチン・キリスト教博物館のアイカテリーニ・デラポルタ館長も、こうした共存の意義を発信するために、同博物館で、日本の仏像展を開きたかったそうです。物質的な世界の価値観では見えにくなってしまっているものの、世界の異なる宗教行事や宗教美術に結実されている共通の「光」があることを、このたびの展覧会で見せていきたいそうです。

東西文化の源流をつなぐヘレニズム文化の華麗な変遷を、ギリシャから奈良まで辿ることで、すべてが一つであり、皆つながっていること。皆それぞれがかけがえのない華であることを訴えていくのが、「光と希望のみち」展の趣旨になり、それを奈良の世界遺産や国宝・重要文化財の写真や映像作品、講演会で見せていくものです。

日希修好通商航海条約締結120周年記念式典

1月14日の記念式典では、ビザンチン・キリスト教博物館のアイカテリーニ・デラポルタ館長、ゲオルゲ・カトロウガロス・ギリシャ外務副大臣、清水康弘駐ギリシャ日本大使がご挨拶されましたが、ご挨拶の中で「光と希望のみち」展につきましても、「日本とギリシャの古代からのつながりを示す最高の展覧会」とのお褒めの言葉を頂戴いたしました。

それは、まさしく奈良の1400年の伝統力が培ってきた芸術の力、そしてシルクロードを経て、東西文化の融合の結果花開いた、日本独自のヘレニズムの華への賞賛にほかなりません。

His Excellency Ambassador of Japan to Greece, Mr. Yasuhiro Shimizu

なお1月29日(19時30分〜21時)には、ビザンチン・キリスト教博物館での講演会も予定しています。詳細は、ビザンチン・キリスト教博物館のサイトをご参照くださいませ。

http://www.byzantinemuseum.gr/en/?nid=2371

ギリシャ展の様子は、また第二弾をご報告したいと思います。

末筆ながら、この度の展覧会開催のために、ご尽力いただいた関係各位に、心から感謝を申し上げたいと存じます。

アテネより

2019年1月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

Text by Miro Ito /Media Art League. All Rights Reserved.

“Road of Light and Hope – Voyage of the Hellenism to Japan”

Photographs and Text by Miro Ito

Byzantine and Christian Museum

場所:Leoforos Vasilissis Sofias 22, Athina 106 75, Greece

期間: 16th – 28th January, 2019

共催:Byzantine and Christian Museum、在ギリシャ日本大使館、日本カメラ財団、メディアアートリーグ

後援:日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー

撮影協力:東大寺、春日大社、奈良国立博物館

WEBサイト:http://www.byzantinemuseum.gr/en/

更新:2019年1月26日

【第12回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.11「トロントからリオへ:平和への祈りと巨像の道」

2018-08-20

(Mês do Japão 2018 フライヤー)

トロントからリオへー平和への祈りと巨像の道

残暑お見舞申し上げます。

本年は、長崎の平和祈念式典に、国連のグテレス事務総長が初めて参列し、核なき世界平和への祈りが、国境を越えてさらに広がることが願われました。

私自身、マザーテレサが毎日唱えていたという「フランシスコの平和への祈り」を厳かに反芻しました。自らを「平和の道具」とならしめるための、祈りのことばです。

主よ、わたしをあなたの平和の道具としてください。 

憎しみのある所に、愛を置かせてください。

侮辱のある所に、許しを置かせてください。

分裂のある所に、和合を置かせてください。

誤りのある所に、真実を置かせてください。

疑いのある所に、信頼を置かせてください。

絶望のある所に、希望を置かせてください。

闇のある所に、あなたの光を置かせてください。

悲しみのある所に、喜びを置かせてください。

… … … …    … … … …

(以下続く[*])

さて、6月のトロント日系文化会館でキックオフとなった新しい世界巡回展「隠し身のしるし (Signs of the Intangible) 」に続き、7月には外務省の招待により「ブラジル日系移民110周年記念事業」のため、トロントからリオデジャネイロを訪問しました。

中央郵便局の歴史的な建物が文化センターとなった「リオ郵便局文化センター (Centro Cultural Correios) 」を会場に、「日本月間 (Mês do Japão)」が行われ、私は、5カ国6都市目の展示となった世界巡回展「光と希望のみち(Road of Light and Hope) 」を開催させていただきました(共催:リオデジャネイロ日本国総領事館、国際交流基金、日伯文化協会、メディアアートリーグ、日本カメラ財団、後援:郵便局文化センター、110周年記念委員会、日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー)。

リオの「日本月間」は、ブラジル三大紙聞の一つ「Segundo Caderno」紙で大きく取り上げられ、オープニングイベントには、合計300人くらいの方々にお集まりいただきました。

東大寺や春日大社、奈良国立博物館の特別協力のもと、7年がかりで撮り下ろした極めて貴重な奈良の国宝・重要文化財を紹介する写真作品シリーズを前に、星野芳隆総領事、日伯文化協会会長、郵便文化センター館長からご挨拶をいただきました。その後、私のショートレクチャー&映像上映に加え、私自身が芸術監督を務め、伎楽をバレエとして復活させた「伎楽バレエ」 (踊り手:春双) も、会場に華を添えてくれました。

このイベント「日本月間(Mês do Japão)」へは、7月4日から29日までの3週間半の間に、6万2000人が訪れてくださいました。

 

二つの巨像

さてリオデジャネイロといえば、標高710mの「コルコバードの丘 (Morro do Corcovado)」の上に、両手を広げて聳え立つ「キリスト像 (Cristo Redentor)」が有名です。

奈良の大仏さまが”復興”のシンボルならば、リオのキリスト像は”独立”のシンボルです。歴史を紐解くと、かつての宗主国ポルトガルは、ナポレオンの侵攻により1808年から14年間、ブラジルのリオデジャネイロに遷都していた時期がありました。その後、ナポレオンが倒れたのち、リスボンに国王が戻り、その余波の中で1822年、ブラジルが独立を果たしました。その独立100年を機に工事が始まり、1931年に高さ38メートルのキリスト像が建てられました。

その威容は、リオの人々の心の拠り所であり、世界中の訪問客で溢れかえっています。もとより巨像には、奈良の大仏さまと同様、宗教の垣根を越えて、人々の心をつなぐ役割があるように思われます。祈りにおいて、皆が一つになれるからです。

祈りの内容は十人十色ながら、冒頭の「フランシスコの平和への祈り」は、「慰められるよりも慰め、理解されるより理解し、愛されるよりも愛することを求めさせてください」と続きます。そして結句では「与えることで人は受け取り、忘れられることで人は見出し、許すことで人は許され、死ぬことで人は永遠の命に復活する」と結ばれます[*] 。

まさに「愛されるよりも愛すること」「許すことで許されること」にこそ、平和への道があるように思います。そして言葉の上だけではなく、人々の行為がその種となることで、キリストや仏陀の心とも一体となれるように思うのです。

巨像には、自らが平和の種となれることを示し、光となれること(自灯明)へと導く道としての力があるように思われます。

 

巨像の道(グレイトブッダロード)

さて、リオ州立大学での特別講義のテーマは、昨年のシカゴ大学での講義と同様、盧舎那大仏が伝来した「シルクロード叡智の道」についてでした。

アジアの巨像を含む石窟仏教寺院の伝統は、1世紀頃のバーミアン(バクトリア地方)からカシュガルへと抜け、タクラマカン砂漠とタリム盆地の上方を西へ進む天山南路を、クチャ(キジル) 経由で、トルファンに至り、敦煌、雲崗、龍門において開花しました。その西域からの伝統が、唐王朝のときに奈良へと繋がった道を「叡智の道」として紹介しました。

もとより大仏さま造立の背景にある叡智とは、華厳の教えが説く「皆がひとつ」であり、「誰もがかけがえのない華である」というものです。その華厳の心を、「日本月間」を飾るオープニングのレクチャーにおいて、大仏さまや伎楽面の映像作品を通して訴えさせていただきました。イラン出身の移住者の女性からは、「皆がひとつであり、それぞれが多様な華であること」はブラジルの心と同じであり、大いに賛同いただきました。

またリオ州立大学での講義は、ブラジルの若者たちに、予想以上に支持される好結果となりました。1400年前の多文化主義を体現したかのような東大寺の伎楽面・春日大社の舞楽面は、500年以上かけて、ブラジル文化に花開いた多民族主義と重なり合う部分があるためか、1時間半の講義の後は、1時間以上も学生たちと懇談をしました。

盧舎那大仏を「日本の復興の象徴」として紹介するSegundo Caderno紙 (2018.7.4)

聖徳太子が思いみた「和」の心を体現する伎楽面や舞楽面。そして聖武天皇が生きとしいけるものすべての幸せを願って、延べ260万人の国民とともに造立した大仏さま。この夏は、国策として多様性と包容性を掲げるカナダからブラジルへ渡航し、二つの多文化主義の国々で、実に多くの方々にご賛同いただいた体験が、かけがえのない収穫となりました。

この後「光と希望のみち」展は、「日墨外交関係樹立130周年」を記念してメキシコシティを訪れる予定です。

奈良の人類遺産の普遍的な訴求力を通して、平和への祈りの道であり、叡智の道を、引き続き世界に発信していきたいと改めて強く誓う次第です。

さまざまなご支援を与えてくださった関係各位の皆様のご尽力には、心から感謝申し上げ、 平和への祈りを込めて、残暑のご挨拶に代えさせていただきます。

2017年8月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Text by Miro Ito/Media Art League. All Rights Reserved.

注[*] Wikipediaより抜粋

【第11回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.10 「隠し身のしるし」展:日本の1400年の奉納の歴史を探る、聖なるものへの旅

2018-06-11

 

隠し身のしるし」展ポスター (日系文化会館、トロント)

Signs of the Intangible: Bodyscapes of Japan’s 1400 Years of Performing Arts by Miro Ito

 

日本とカナダの修好90周年を記念する「隠し身のしるし(Signs of the Intangible)」展がトロント日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Center)で開催中です(6月27日まで)。

私が10年前に行ったNY公立舞台芸術図書館(リンカーンセンター)での展覧会「Men at Dance – from Noh to Butoh」(能から舞踏へ)を継承しつつ、現在世界巡回中の「光と希望のみち」展の続編として、東大寺の天平彫刻の最高傑作や伎楽面、春日大社の舞楽面の写真作品を加えさせていただき、「日本の1400年の舞と武の心体景観」を焙り出す展覧会として、再構成いたしました。

この展覧会は、トロントのメジャーなイベントであるトロント日本映画祭(Toronto Japanese Film Festival)(6月7日から6月28日)との同時開催になり、6月21日には、アーティストトーク&ショートムービーの上映会を実施いたします。大変光栄なことに、伊藤恭子総領事にも、ご挨拶をいただきます。トロントへお立ち寄りの際には、ぜひ足をお運びくださいませ。(※詳細は、PDFをダウンロードの上[ pdf download: _signs_of_the_intangible_poster_2018June11]、ご参照くださいませ。)

 

美術の起源を探る旅

さて、この15年間、日本の1400年の芸能史を紐解く思いで、奈良を中心に、有形無形の世界遺産・国宝・重要文化財を撮影・取材させていただきながら、「祈りと奉納の系譜」を、探求してまいりました。

もとより美術の起源には、象徴表現がその大元にあります。原始時代においては、自然の力への崇拝として、狩猟や子孫繁栄への願いのしるしとして、洞窟や岩壁に形象が描かれてきました。宇宙にみなぎる不可視の力を見える形で視覚化させるために、イメージの創造という、文化の根幹である象徴表現が生まれ、祈りの儀式が起こり、神話が語られ、原始宗教が始まりました。

聖なるものを目指すイメージの創造は、記号や文字を生み出し、文明を萌芽させました。そして古代のイメージの創造における頂点ともいえる、エジプトやギリシャの神話の世界においては、現世と神々の世界の交流のために、崇高なる美の世界が追求されました。神の観念の擬人化が行われ、人体像や半人半獣像が作られ、現実と聖なる世界は、奉納や儀式という「場」で結びついてきたのです。

こうした古代ギリシャの奉納像の伝統は、アレクサンダー大王の東方遠征に伴い、西アジアや中央アジアへと伝えられ、仏像の起源となりました。さらに伎楽や舞楽などの仮面芸能も、ギリシャが発祥とされています。

 

心身一如の景観

さて、古代ギリシャの奉納の伝統をシルクロードを経て受け継ぎながら、仏教の禅定の影響のもとに、日本文化においても、心体を「場」として、隠された世界が追求されてきました。

とりわけ鎌倉時代に文化の基調となった禅においては、瞑想以外にも、平常心を通して、無の境地へ向かう道として、技芸が追求されました。武道から、書道、画道、香道、華道、茶道まで、「精神と宇宙の根源が交流する場」としての身体を通して、「心身一如(道元)」を目指す、技芸も「道」となったのです。

技術の習熟を通して、無になり、天地と一体となる自由を獲得することで、その行き着く先は「聖なるもの」なのです。天地と身体と精神の一体化が「道」として目指されてきた心体景観が、日本文化の深淵には横たわっています。

こうした聖なるものに至る道を、仏像などの奉納像から伎楽面や舞楽面などの仮面、そして能や古武道、果ては舞踏、現代舞踊まで、私が25年以上、撮影しているテーマに他ならず、同展「隠し身のしるし」の根幹にあるテーマです。

この度の展覧会は、2020年の東京オリンピック開催に合わせて、日本の1400年の有形・無形文化遺産の伝統の豊かさとシルクロードとのつながりを訴え、東西・南北の世界の心の連帯を訴求していくためのものです。トロント展を皮切りにして、世界巡回を予定しております。お力添えをいただいたご関係の皆様に、主催・共催者を代表して、厚く御礼申し上げます。

 

2018年6月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ代表


開催場所:日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Centre, 6 Garamond Court, Toronto, ON, M3C 1Z5 Tel.(416) 441-2345)

開催期間:2018年5月23日から6月27日

開催時間:午前9:00から午後8:00(無休)

イベント:アーティストトーク&映像上映会:2018年6月21日(午後7:00)

共催:メディアアートリーグ、一般財団法人 日本カメラ財団、トロント日系文化会館(Japanese Canadian Centre)

後援:在トロント日本国総領事館、公益社団法人 日本ユネスコ連盟協会

助成:一般社団法人 東京倶楽部

写真&映像作品、文章:伊藤みろ(メディアアートリーグ)

撮影協力(敬称略):東大寺、春日大社、奈良国立博物館、金春穂高(金春流シテ方能楽師)、武田志房・友志・文志(観世流シテ方能楽師)、

室伏鴻(舞踏家)、Sal Vanilla(舞踏ユニット)、春双(舞踊家)

プロジェクトマネジメント&英語編集:Andreas Boettcher (メディアアートリーグ)

その他協力:キャノンマーケティングジャパン、イイノメディアプロ(機材協力)、Canon USA(プリント協賛)、佐河太心(掛け軸装丁)、新井工作所、日本ケアコミュニケーションズ(その他協賛)ほか


Text & Photo by Miro Ito / Media Art League. All rights Reserved.

【第10回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.9「明治150年 世界機運に飛び乗った幕末・明治遣米使節団」

2018-04-22

明治150年を記念して、在シカゴ日本国総領事館広報文化センターにて、「The LAST of the SAMURAI」展が4月10日から開催されています。幕末・明治にアメリカへ送られた使節団、「最後の侍たち」の肖像写真を中心に、アメリカでの歓迎の様子を紹介する49点の写真展です。

主催は、日本カメラ財団、ならびにシカゴ総領事館と日本文化会館(Japan Cultural Center)、共催はメディアアートリーグ。4月25日までは、同総領事館で開催され、その後、5月5日から13日までは、日本文化会館にて開催されます。

4月10日のオープン二ングの際には、伊藤直樹総領事から、シカゴと岩倉使節団とのご縁を含む、機知に富んだ素晴らしいご挨拶を頂戴いたしました。プロデューサーとして、私もショートレクチャーを行う機会に恵まれ、その後にノースウェスタン大学トーマス・ガウバッツ准教授による、江戸と明治の風俗についてのショートレクチャーが続き、最後に舞踊家・新井春双の居合舞「散り際の美学」(プロデュース:メディアアートリーグ、音楽:Hagi)を披瀝させていただき、いずれも大きな反響をいただきました。

 

世界の激動の100年

私の講演のテーマは、幕末・明治の二つの遣米使節団の背景と目的についてでした。同じレクチャーは、シカゴの名門私立大学ノースウェスタン大学でも、ガウバッツ准教授のクラスにて、行わせていただきました。

徳川幕府による遣米使節団は、万延元年にペリー来航(1853年)の翌年に結ばれた日米和親条約の後、日米修好通商条約批准書交換のために、1860年、77人の侍たちがアメリカに派遣されたミッションです。正史・新見正興を団長とする77人の侍の特使に加え、司令官・木村喜毅(芥舟)、船長・勝海舟が率いる96人が、護衛艦・咸臨丸で随行しました。咸臨丸には、福沢諭吉や通訳・ジョン(中浜)万次郎も同乗していました。

一行は、ワシントンとニューヨーク、フィラデルフィアとボストンを訪れ、各地で熱烈な歓迎を受けました。「ニューヨーク・ヘラルド」紙が「星からの珍客」と評し、また16歳の見習い通詞の立石斧次郎が「トミー」としてアメリカの婦人に大人気となり、「トミーポルカ」という歌が流行するなど、その後の侍伝説を生み出していきます。このトミーは、後に長野桂次郎として、岩倉使節団にも随行しました。

時代的には、1860年のアメリカは、アブラハム・リンカーンが大統領に当選した年でした。そして翌61~65年には南北戦争が勃発。大きな時代の変革の波が、世界に押し寄せていました。

ヨーロッパでは「1848年革命」が起こり、君主制国家に抵抗する自由主義・ ナショナリズムの台頭が連鎖的に発生したことで、ウィーン体制が崩壊し、以降1945年までの「激動の100年」が始まっていました。その後の53~56年のクリミア戦争をきっかけに、ロシアのプチャーチンが、ペリーに続いて日本の開国を求めて1854年に長崎に来航。ロシアとイギリスが長崎で接近したことをきっかけに、徳川幕府と英国は、秘密裏に外交交渉を始めることになりました。

一方、ペリーが日本との和親条約を、最初に単独で締結できたのは、ヨーロッパ諸国が当事者としてクリミア戦争に参戦していたため、太平洋地域に優先的に関心を向けられなかった、という裏事情がありました。

世界の激動の波に呑まれるように、日本においても、1853年から1945年までは、激動の100年となりました。大政奉還を原動力に、富国強兵を国策として、「脱亜入欧」を掲げ、「文明開化」のスローガンの下、西洋先進諸国への仲間入りを果たすべく、一気に近代化・工業化への階段を駆け上っていきました。

開国後は、日本の近隣諸国との関係も変化し、それが二度の世界大戦の入り口となりました。そして第二次世界大戦後は、日本は民主国家として再生され、世界的には、植民地の独立をもたらし、帝国主義が終焉しました。

 

副産物としての美術外交

一方、明治維新では、あまりにも短い間に、急激な西洋化が進められたことで、飛鳥時代以来、江戸時代までの1200年以上続いた神仏混交の伝統は、廃仏毀釈政策のもとで神仏分離がなされ、多くの仏像や仏具、仏教行事が排除され始めました。その結果、1897年の古社寺保存法の制定、1929年の国宝保存法までの間、仏像や仏画から、絵巻物、水墨画、琳派、風俗画や浮世絵版画まで、大量の秘宝が海外に流失しました。

これらの貴重な文化財は、今日、ワシントンのフリア美術館やボストン美術館、NYのメトロポリタン美術館、大英博物館などで鑑賞することができます。ちなみにシカゴ美術館にも、全米一といわれる浮世絵版画の大コレクションが収蔵されています。

これらのコレクションにより、その後、日本美術の優れた研究者が数多く生まれ、日本文化への理解が深められたことは、ナショナリズムを超えた世界的な宝物の伝搬と保存、研究という視点からは、別の意義が見えてきます。明治維新をきっかけに、国境を越えた日本の優れた伝統芸術による「美術外交」が、その後の日本文化の深い理解への道を開いたものと考えられるからです。

 

シカゴとのご縁

さて、使節団とシカゴとのご縁は、明治維新後に岩倉使節団が訪問したことでした。

一行は、1871年12月13日に横浜を出発、22日かけてサンフランシスコに到着。翌1月31日にサンフランシスコを出発して、サクラメントへ赴き、そこからシエラ・ネバタ山脈を越える鉄道の旅を経て、ユタ州ソルトレイクシティへ到達。その後、ワイオミング準州でロッキー山脈を越え、ネブラスカ州オマハまでの2900キロの鉄道の旅を遂行しました。アイオワ州でシカゴ行きの列車に乗り換えた後は、どこまでも広大なトウモロコシ畑の続く行程を進み、イリノイ州に入ってシカゴに至るまで、オマハからさらに816キロを鉄道で走破しました。

シカゴへの到着は2月27日で、前年10月のシカゴ大火災でまだ被災の跡が顕著に見られたところへ、正史・岩倉具視が5000ドルを寄付したといわれています(『米欧回覧実記』(久米邦武編著、水澤周訳・注、慶應義塾大学出版会)。一行は、当時世界最高水準と言われたミシガン湖畔の揚水装置や水道システム、最新式の消防機械、二箇所の小学校と商品取引所を視察しました。

とりわけ、シカゴとのご縁を語る上でのユニークなエピソードは、唯一の和装姿、「小道服に髷」の公家装束を纏った岩倉正史が髷をシカゴで断髪したことでした。一行は、丸一日をシカゴで過ごし、夜にはシカゴを発って、首都ワシントンを目指し、さらなる1130キロの旅に向かいました。

 

遣米使節団からのメッセージ

今回、「The Last of the SAMURAI」展をシカゴで開催できたことは、二度の世界大戦を経た激動の100年における怒涛のような体験にも拘わらず、アメリカとの長い友好の歴史を振り返り、未来の世代に向けて、相互理解を深めていくために、大変良い機会になったことと願っています。

かつてシカゴ・トリビューン紙は、岩倉使節団について、以下のような記事を掲載しました。

「日本は未開国の中で最も文明化されており、しかもヨーロッパのどの国よりも古い歴史を持っている。われわれの祖先がまだ未開で裸で暮らしていた頃から、日本には政府も法律も学校も文学もあった」(泉三郎著『堂々たる日本人』祥伝社黄金文庫より)。

すなわち民族や文化、宗教や風俗の違いを越えて、人としての威厳、異質なものを尊重する寛容さ、「仁義礼信智」を根幹に置くサムライ精神がアメリカの人々にも、伝わったのだと思います。

使節団は、その後、ホワイトハウスでジェームズ・ブキャナン第15代大統領に国書を奉呈した際、新見正使、村垣副使、小栗監察は狩衣に太刀を佩く、公家や大名の烏帽子姿でした。4頭立ての馬車に乗ってはいたものの、槍持ちやお供を従えた大名行列さながらの一行を見ようと、沿道や通り沿いの家々の窓から屋根上まで、大勢の人々が群がっていました。その熱狂ぶりは、同写真展でもご覧いただけます。

ハリー条約を改正する目的は遂げられなかったものの、150年後にこの歴史を振り返るとき、分断化の進むアメリカ社会において、異質なものを尊重し、互いに信頼し合い、人としての尊厳を大切にし合うことにこそ、幕末・明治の使節団から時空を超えた意義が読み取れるのです。

これこそ幕末・明治使節団による外交の、今日的なメッセージであり、それが「写真外交」となって、次世代への興味を深めるひとつのきっかけとなることを願ってやみません。その意味で「明治150年」にちなんだシカゴでの「The LAST of the SAMURAI」展は、大成功といえる文化事業となりました。

主催者日本カメラ財団、共催者メディアアートリーグを代表して、ご関係の皆様に厚く御礼申し上げます。

平成30年4月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Text by Miro Ito /Media Art League. Photographs: JCII Collection. All Rights Reserved

 

※関連リンク:

在シカゴ日本国総領事館広報文化センター (4月25日まで)

http://www.chicago.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/jic_main_j.html

在シカゴ日本国総領事館Facebook

https://www.facebook.com/jic.chicago/

日本文化会館(5月5日から13日まで)

https://japaneseculturecenter.com

【第9回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.8「伎楽の夢:大きく ゆっくり 遠くをみる」

2018-01-01

Gigaku Mask (Karua), 17th century (Photo by Miro Ito)

 

2017年は、世界の分断化がさらに進んだ年でした。

世界が一つにならなければ、明るい未来は、私たちを待ってくれません。

差別や敵愾心、憎悪や恐れが引き起こす紛争に次ぐ紛争の中に、平和への夢ははかなくも消え去ってしまいます。

そんな中、私たちひとりひとりが世界の一体性のために貢献できるという意識や理想を鼓舞していかなければなりません。そうした思いから、私は昨年、「ユニバーサリティ」や「ユニバーサリズム」をキーワードに、名門シカゴ大学やデポール大学で、アメリカの学生たちに東大寺の天平彫刻に託された「東西の叡智の道」について語らせていただきました。

「ユニバーサリズム」とは、宗教的な意味では「万人救済」の思想です。広義では、すべてが一つであるという普遍的な理念を元に、お互いの差異を認め合い、尊重し合う理想といえます。

この理念を端的に示しているのが、1400年以上前に日本に伝来した伎楽や舞楽などの、シルクロードの芸能です。聖徳太子が奨励したといわれるのも、伎楽や舞楽の中に、異質な文化が豊かに共存しているからです。まさにアートの中に体現された「和」の心であり、ユニバーサリズムの粋といえるのです。

 

伎楽、舞楽とは

芸能として滅びてしまった伎楽は、ギリシア仮面劇を起源とするユーラシア最古の仮面劇といわれます。552年の仏教伝搬の頃、日本に伝来し、奈良時代以来、仏教行事として法隆寺や東大寺、西大寺、興福寺などで奉納され、仏教の興隆に大きく貢献したといわれます。その表情豊かな見事なフォルムの仮面群は、雄大なシルクロードの東西の交流史を今日に伝えるものです。

一方、海のシルクロード諸国の王朝芸能を集成させた舞楽は、宮中の芸能として、外国からの来賓への祝宴の場や、国家的な祭礼の際に演じられてきました。奈良時代より三方楽所(朝廷・南都・四天王寺)において伝承され、1500年の伝統を今日まで伝えています。

 

伎楽、舞楽が語るもの

一昨年の5月からNY国連本部で始まった世界巡回展「光と希望のみち(Road of Light and Hope)」は、共催者である日本カメラ財団と外務省のご支援を得て、ウズベキスタン芸術アカデミーやストラスブール欧州評議会・欧州の広場、トロント国際交流基金、シカゴ日本広報文化センターで開催してまいりました。東大寺の伎楽面や春日大社の舞楽面は、その魅力あふれるエネルギッシュな造形表現により、感嘆を以って迎えられました。

注目された点は、長く大きな鼻や皺で歪んだ顔、豊かな喜怒哀楽の表情も、それぞれの個性として、誇らしげに最大限に強調された顔だちです。それぞれのキャラクターが違った個性を持っていることにこそ、価値が見出せるのです。そのことで、世界がいかに豊かになっているかということに、仮面を通して、改めて気づかされるのです。

ちなみに胡国と呼ばれた「ゾグド国」は現在のウズベキスタンに当たる地域です。ウズベキスタンでは、4つのテレビ局のインタビュー取材を受け、メディアで広く報じられました。私が答えたのは、以下のポイントです。

ー伎楽がシルクロード伝来の1400年以上前の造形であること。

ー仮面が日本にしか残されていないのは、日本が歴史的に他国の侵略を受けなかったこと。

ー皆が同じであるという一体性の意識を訴求するものであること。

ー多民族や異なる宗教をつなぐ答えが秘められていること。

 

伎楽はまさにシルクロードの縮図であり、世界の縮図なのです。

実際、文明の十字路といわれるウズベキスタンは、まさに人種や民族のクロスロードであり、一人一人の顔立ちが異なる人種の混合で、人種のるつぼの感がありました。アレクサンダー大王の東方遠征にともなったギリシア人入植以来、2300年以上の時をかけて、さまざまな民族が豊かに共存する姿に、伎楽の精神を見る思いがしました。

 

伎楽との出合い

さて、伎楽との出合いは、私自身がNYで遭遇した9.11の翌年の夏でした。シルクロードをテーマにヨーヨー・マがプロデュースした「スミソニアン・フォークロア・フェスティバル」( ワシントンDC)において、伎楽を復元した故・五世野村万之丞(本名:耕介)氏の「楽劇 真伎楽」と邂逅したのです。

その2年後に、野村氏は44歳の若さで逝去し、私はその間、アメリカから帰国する度に撮影していた氏の作品群を、写真集『萬歳楽ー大きく ゆっくり 遠くを見る:野村万之丞作品写真集』( 日本カメラ社)として上梓しました。

その後、平城京遷都1300年を記念して、大仏開眼供養会(752年)で使われた天平時代の伎楽面(重要文化財)を、東大寺から特別の許可を得て、奈良国立博物館のご協力の下、撮らせていただきました。同年には春日大社の重要文化財である舞楽面も撮影させていただきました。

伎楽面や舞楽面を眺めていると、先人たちの思いと出合えます。東西の多彩な神々や民族の王者、仙人や実在の英雄たちが “キャラクター化” された姿は、まさにギリシア的なミニチュア版「パンテオン(万神殿)」さらながら、未来への答えが見えてくる気がいたします。

伎楽も、舞楽も、シルクロード伝来の平和の使節団だったのではないか、そんな思いと出合えるのです。

 

大きく ゆっくり 遠くを見る

新年には、世界の一体性への願いを託し、五世野村万之丞氏の「大きく ゆっくり 遠くを見る」という言葉を改めて思い出しました。五世万之丞氏は、死後に八世万蔵を追贈されましたが、その野村万蔵家の家訓だそうです。

「大きく ゆっくり 遠くを見る」ことで、現在の私たちの立ち位置も変わってくるのではないでしょうか。環境問題にしろ、世界中のさまざまな紛争にしろ、未来と過去を自由に往来できる視座を身につけることで、解決に向けた意識が育まれるはずです。

伎楽面や舞楽面は “時の行者”として、そのことを教えてくれるのです。

そして「大きく ゆっくり 遠くを見る」視座には、世界への答えがあるということも____。

 

2018年正月、平和への魂からの願いをこめて

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

(※写真は、正倉院の伎楽面が復元された江戸初期のもので、高松の旧家に所蔵されていたものです。)

(C) Text and Photo by Miro Ito / Media Art League. All Rights Reserved.

【第7回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.6「宇宙という”生命”への思いと東西の叡智」

2017-08-04

写真:「東大寺の国宝写真展」よりー蓮弁毛彫「蓮華蔵世界図」(左)、「不空羂索観音立像」(中)、国際交流基金トロント日本文化センター(右)(撮影協力:東大寺)

 

宇宙という”生命”への思いと東西の叡智

生命の力は、宇宙を浸透する海のように尽きることなく、人間の行動を超越して流れ続けています。私たちは、その生命の大海原に棲む魚のような存在といえ、その源から生命を受け取り、成長し、次世代へと引き継ぎ、消滅しては循環しているといえます。

遥か2500年前に、悟りを啓いたブッダは、世界を絶え間なく変転する海として描き、そこに咲く蓮華の花に例えました。蓮華の花状の「世界海」は、「一切香水海」という海原に咲き、幾重もの無数の風輪(大気)に支えられています。それがさらに上へと重ねられ、如来の教えが遍く十方を照らす一つの銀河系のような単位の宇宙を構成する様は、東大寺盧舎那大仏の7枚の蓮華座に「蓮華蔵世界図」として、1300年前に掘られました。

7枚の蓮弁の中央には、それぞれ左右7対の蓮弁をもつ巨大な蓮華が表され、それぞれの請花には、また同じ宇宙系の図柄が描かれており、大宇宙のなかに小宇宙が同時に共存する「入れ子構造」になっています。

大仏さま造立の根幹にある華厳経では「極微の世界のなかに極大の世界が含まれる」ことを説いていること、また7という数字は、インドでは無限を表す聖数とされることから、蓮弁の毛彫図は、際限なき宇宙の成り立ちと広がりを図像化させたものだと考えられています(*)。

さて、大仏さまの蓮華蔵世界図で描かれるこうした宇宙の構造が、1300年前の古代に日本に伝えられていたことは、驚嘆に値します。

宇宙がインフレーションで膨張するとき、同時に収縮する中心部の母宇宙のワームホールから子宇宙がうまれる、という現代のインフレーション理論とも共通しています。さらに現代では、遠大な宇宙自体の生命論が語られるようになってきています。

 

すべてに神性・仏性をみる

いっぽう宇宙は想像がつかない規模のものですが、同様に、わたしたちの身体は宇宙の縮図であり、小さな私たちの細胞のなかにも大きな宇宙があると考えるとき、宇宙とのつながりを、身近に感じることができるのではないでしょうか。

こうした思いに気づくとき、私たちには、二つの選択肢があります。ひとつは私たちを支えている地球を含む宇宙を、わが「生命」と思い、敬い、協調して生きるのか。もうひとつは、地球を「資源」と思い、搾取し、汚染し、破壊していくのか。破壊的な行動とは、いうまでもなく、地球に不調和をもたらして、生命の流れをせき止める選択をすることです。

私たちは、大自然や身近な環境の中で、すべてに神性や仏性が宿るという、東洋古来の思想に戻り、宇宙の生命の流れと一体化する体験を取り戻すことが、いままさに必要なことのように思えます。こうしたことで、環境保全や地球温暖化への問題意識も芽生えてくるのではないでしょうか。

 

トロント東大寺国宝写真展、無事終了

3月15日から始まった国際交流基金トロント日本文化センターでの展覧会「Road of Light and Hope: National Treasures of Todaiji Temple, Nara (光と希望のみち:奈良・東大寺の国宝写真展)」が6月28日に無事に終了しました。

東大寺の特別協力により、国際交流基金トロント、日本カメラ財団、メディアアートリーグの共催で実現した同展で、私が訴えかけたかったことは、もとよりこうした古代の叡智のもつ普遍性です。

蓮華蔵世界図(大仏蓮弁毛彫図)に描かれた、壮大な宇宙の入れ子構造がインド的な宇宙観を反映させたものであるならば、華厳経で説かれる「一が多であり、多が一である」教えは、古代ギリシア哲学(プロティノス)の思想とも共通するものです。すなわち生命の「一体性」という叡智の伝統です。

シルクロード伝来の、こうした東西を貫く叡智の伝統を、宇宙的な規模で作品化したものが盧舎那大仏の蓮華蔵世界なのです。

去る5月26日の講演会&映像作品上映会には、定員80名の会場はほぼ満席の盛況となり、ショートムービー「盧舎那仏の光の道」など3作品を上映し、「すべてが一つであり、つながっている」という叡智から、いまわたしたちが、時空を超えて1300年前の平城京の精神遺産から学べることを、カナダの人々にお話できました。

そして戒壇院四天王像や日光・月光菩薩、法華堂の御本尊である不空羂索観音をはじめ、東大寺の天平彫刻の傑作に、トロントの人々に、写真作品を通して触れていただきました。

天平彫刻における東西文化の交流と融合も、「光と希望のみち」の重要なテーマです。ご来場いただいた方々にとって、1300年前の日本の彫刻作品が西洋文化と共通の起源をもち、身近に感じられた機会になったことを、心から願う次第です。そして本物を見るために、東大寺をはじめとする、奈良の世界遺産の社寺へと、カナダの人々がいずれ訪れる機会に結びつくことを願って止みません。

こうしたシルクロードの叡智をテーマに、世界の平和に役立てたく、世界巡回展「光と希望のみち」と同名の映像作品を現在企画中です。ぜひ多くの方々にご一緒いただけたらと切に願う次第です。

NY国連本部から始まり、ウズベキスタン芸術アカデミー、欧州評議会を経て、このたびトロントで開催された世界巡回展「光と希望のみち」でお世話になった、すべての関係者各位に、今一度心から厚く御礼申し上げるとともに、引き続きご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

2017年8月吉日 東京より

 

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

Text and Photos by Miro Ito (All Rights Reserved.)

(*) 参考文献:森本公誠著『世界に開け華厳の花』(春秋社)

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