【第3回】伊藤みろ発 メディア=アート+メッセージ No.1 ただ一つの道がある

Antique Maps of the World Double Hemisphere World Map Louis Charles Desnos c 1786

Antique Maps of the World
Double Hemisphere World Map
Louis Charles Desnos
c 1786

 

ただ一つの道がある

新年に入ってからの世界情勢は、文明の進歩と理想の退歩が交錯し、日ごとに希望と挫折が綱引きを行う、歴史的な大局を迎えつつあるように思われます。テロの暴力や戦争の悲劇、天災や疫病に、多くの人々の希望の光が吸い込まれそうになりながらも、国際的な協調の波がさらに高まっています。

グローバリゼーションの結果、かくも広範囲にめまぐるしい変化が起こりつつあるのは、現代という時代の恩恵でありながらも、その急激な副作用といえるかもしれません。グローバル化は、広範囲の文化の均質化をもたらし、多様性を育む地域の伝統への「津波」となる一方、文化摩擦や経済格差をもたらし、平等化とはかけ離れた、人種間の紛争とも絡み合っています。

「平和維持」や「難民」「人権」をはじめ、「環境保護」「発展途上国への援助」などの差し迫った問題の数々は、国家という枠を超えてグローバルに取り組む課題にほかなりませんが、国連などの国際機関に決定を委ねると同時に、21世紀初頭という時代を生きる、私たち一人一人にも、「地球市民 (コスモポリタン)」としての新しいアイデンティティが求められているように思われます。

解決のないまま、グローバル化の波とともに広がる混乱の中で、世界文化を目指した古代の叡智を繙き、愛と知恵、調和を基盤とした人間文化の根底にある価値観や哲学をいまこそ見つめ直していきたいものです。

そんな思いとともに、現在の世界的混乱の先駆けとなった「9.11」以来、私は、永住権を取得済みのアメリカを一旦離れ、2003年より奈良の神仏混淆の伝統を取材してまいりました。

 

「寛容と平等」を地球市民の規範に

奈良において私がこの10数年間で学んだのは、聖徳太子にはじまる「和」の精神です。

太子発令の憲法十七条(二条)の「篤く三宝を敬え」に記されたように、そこに顕著に見られるのは、仏教を異国からの新しいカミとして受け入れた寛容の精神です。

その後、奈良時代になって聖武天皇が、全国各地に国分寺・国分尼寺を建立して仏教を国教化し、盧舎那大仏を造立したことで、神仏習合は一気に進みました。ちなみに仏教自体も「天部」とよばれる、ブッダの教えに帰依した古代インドの神々を包含しています。

もとより寛容さは、イエス・キリストの「隣人を(汝が如く)愛せよ」の教えそのものであり、異質なものを尊重し、対話を通して矛盾や衝突を乗り越えていく、平和と協調を生み出すための普遍的な行動規範といえます。

「寛容とは、人間の多様性に積極的かつ前向きに関わることであり、この多民族・多文化社会において民主主義の根本原理のカギとなるものです」(コフィー・アナン前国連総長による「国際寛容デー(11月16日)」についてメッセージより)。

一方、聖徳太子の功績は、飛鳥時代に、仏教の教えと当時最先端の文化を基盤に、日本という国家の礎をつくる一方、随との間で、平等な立場で外交を進めたことです。

人々の連帯を生むためには、「平等化」への努力が必要です。豊かさの中にある貧困、食あまりの中の飢え、資源の過剰さの中に不足という矛盾と向き合い、格差が産み出したさまざまな歪みを解消するためには、個人か団体かの区別なく、一人一人が社会・政治・経済的に高い理想を掲げ、さまざまなレベルで「平等化」を実践することが大切です。

そんな寛容と連帯の歴史を学ぶために、シルクロード伝来の文化遺産を取材し、写真や映像作品、書籍などの作品に託してまいりました。

 

「志」を資産に、平和への願いをこめて

さて「寛容と連帯」をつむぐ調和ある進歩を願って、2003年以来、アートがそのためのメディアであり、メッセージとなる、私の活動「メディアアートリーグ」の新しいWEBサイトがこの度、完成しました。

2001年にニューヨークで体験した9.11以来、東洋的な共栄共存の心に学び「ただ一つの道=平和への道」を目指して、この12年間、多くの方々の教えを請い、撮影や取材を行ってきた軌跡を、一つのサイトにまとめることができました。「これまで」をまとめると同時に、「これから」の活動のプラットフォームにできるよう、私にとって、かけがえのない「志」という「資産」を、新しいメディアアートリーグのサイトに凝縮させ、魂を注ぎ込んでいます。

「ただ一つの道」へご一緒いただける方々の心に届くように、文章は新しく書き下ろし、またサイトで展開するイメージカット的なフォトアートは、日本やユーラシアの伝統をテーマに、平和への願いをこめて撮り下ろしています。

聖徳太子や聖武天皇が求めた「和」の精神を作品に託しながら、本年からは、ニューヨークと奈良を結ぶNPO活動を始めたく、現在、5月のNY国連本部での展覧会を準備中です。

国連での展覧会の詳細は、別途メールにてご案内いたしたいと存じますが、奈良でこの12年間に撮影と取材に勤しんだ、ひとつの到達点を披瀝する展覧会になる予定です。

これまでメディアアートリーグの活動にご協力くださり、さまざまなかたちでご支援をくださった方々とのご縁に、改めて心からの謝辞を捧げたいと存じます。

なおこれよりメールレターでのご案内は、「伊藤みろ発 メディア=アート+メッセージとして、ブログにて発信してまいります。不定期な発信になるかと思いますが、かつて2001〜2002年に発信していた「NYからの手紙」同様、ご愛読いただければ、幸甚に存じます。

道は続く

ただひとつの道が_。

寛容と連帯を願う心の道を、どうか皆様とともに歩ませてくださいませ。

 

平成28年5月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

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