
隠し身のしるし」展ポスター (日系文化会館、トロント)
Signs of the Intangible: Bodyscapes of Japan’s 1400 Years of Performing Arts by Miro Ito
日本とカナダの修好90周年を記念する「隠し身のしるし(Signs of the Intangible)」展がトロント日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Center)で開催中です(6月27日まで)。
私が10年前に行ったNY公立舞台芸術図書館(リンカーンセンター)での展覧会「Men at Dance – from Noh to Butoh」(能から舞踏へ)を継承しつつ、現在世界巡回中の「光と希望のみち」展の続編として、東大寺の天平彫刻の最高傑作や伎楽面、春日大社の舞楽面の写真作品を加えさせていただき、「日本の1400年の舞と武の心体景観」を焙り出す展覧会として、再構成いたしました。
この展覧会は、トロントのメジャーなイベントであるトロント日本映画祭(Toronto Japanese Film Festival)(6月7日から6月28日)との同時開催になり、6月21日には、アーティストトーク&ショートムービーの上映会を実施いたします。大変光栄なことに、伊藤恭子総領事にも、ご挨拶をいただきます。トロントへお立ち寄りの際には、ぜひ足をお運びくださいませ。(※詳細は、PDFをダウンロードの上[ pdf download: _signs_of_the_intangible_poster_2018June11]、ご参照くださいませ。)
美術の起源を探る旅
さて、この15年間、日本の1400年の芸能史を紐解く思いで、奈良を中心に、有形無形の世界遺産・国宝・重要文化財を撮影・取材させていただきながら、「祈りと奉納の系譜」を、探求してまいりました。
もとより美術の起源には、象徴表現がその大元にあります。原始時代においては、自然の力への崇拝として、狩猟や子孫繁栄への願いのしるしとして、洞窟や岩壁に形象が描かれてきました。宇宙にみなぎる不可視の力を見える形で視覚化させるために、イメージの創造という、文化の根幹である象徴表現が生まれ、祈りの儀式が起こり、神話が語られ、原始宗教が始まりました。
聖なるものを目指すイメージの創造は、記号や文字を生み出し、文明を萌芽させました。そして古代のイメージの創造における頂点ともいえる、エジプトやギリシャの神話の世界においては、現世と神々の世界の交流のために、崇高なる美の世界が追求されました。神の観念の擬人化が行われ、人体像や半人半獣像が作られ、現実と聖なる世界は、奉納や儀式という「場」で結びついてきたのです。
こうした古代ギリシャの奉納像の伝統は、アレクサンダー大王の東方遠征に伴い、西アジアや中央アジアへと伝えられ、仏像の起源となりました。さらに伎楽や舞楽などの仮面芸能も、ギリシャが発祥とされています。
心身一如の景観
さて、古代ギリシャの奉納の伝統をシルクロードを経て受け継ぎながら、仏教の禅定の影響のもとに、日本文化においても、心体を「場」として、隠された世界が追求されてきました。
とりわけ鎌倉時代に文化の基調となった禅においては、瞑想以外にも、平常心を通して、無の境地へ向かう道として、技芸が追求されました。武道から、書道、画道、香道、華道、茶道まで、「精神と宇宙の根源が交流する場」としての身体を通して、「心身一如(道元)」を目指す、技芸も「道」となったのです。
技術の習熟を通して、無になり、天地と一体となる自由を獲得することで、その行き着く先は「聖なるもの」なのです。天地と身体と精神の一体化が「道」として目指されてきた心体景観が、日本文化の深淵には横たわっています。
こうした聖なるものに至る道を、仏像などの奉納像から伎楽面や舞楽面などの仮面、そして能や古武道、果ては舞踏、現代舞踊まで、私が25年以上、撮影しているテーマに他ならず、同展「隠し身のしるし」の根幹にあるテーマです。
この度の展覧会は、2020年の東京オリンピック開催に合わせて、日本の1400年の有形・無形文化遺産の伝統の豊かさとシルクロードとのつながりを訴え、東西・南北の世界の心の連帯を訴求していくためのものです。トロント展を皮切りにして、世界巡回を予定しております。お力添えをいただいたご関係の皆様に、主催・共催者を代表して、厚く御礼申し上げます。
2018年6月吉日
伊藤みろ メディアアートリーグ代表
開催場所:日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Centre, 6 Garamond Court, Toronto, ON, M3C 1Z5 Tel.(416) 441-2345)
開催期間:2018年5月23日から6月27日
開催時間:午前9:00から午後8:00(無休)
イベント:アーティストトーク&映像上映会:2018年6月21日(午後7:00)
共催:メディアアートリーグ、一般財団法人 日本カメラ財団、トロント日系文化会館(Japanese Canadian Centre)
後援:在トロント日本国総領事館、公益社団法人 日本ユネスコ連盟協会
助成:一般社団法人 東京倶楽部
写真&映像作品、文章:伊藤みろ(メディアアートリーグ)
撮影協力(敬称略):東大寺、春日大社、奈良国立博物館、金春穂高(金春流シテ方能楽師)、武田志房・友志・文志(観世流シテ方能楽師)、
室伏鴻(舞踏家)、Sal Vanilla(舞踏ユニット)、春双(舞踊家)
プロジェクトマネジメント&英語編集:Andreas Boettcher (メディアアートリーグ)
その他協力:キャノンマーケティングジャパン、イイノメディアプロ(機材協力)、Canon USA(プリント協賛)、佐河太心(掛け軸装丁)、新井工作所、日本ケアコミュニケーションズ(その他協賛)ほか
Text & Photo by Miro Ito / Media Art League. All rights Reserved.