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伊藤みろ ブログ 「いのちと祈りの人類遺産」

【第18回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.17 清らかな蓮のように、自然の叡智に向かう

2020-04-26
1300年前の種を受け継ぐ奈良の蓮

毎日、世界の多くの国々で報じられる言葉を失う惨状を、深まる悲しみともに切り抜けながら、新しい時代が始まろうとしています。

新型コロナ感染の災禍とともに、一人一人の自粛への自覚が求め荒れるつつある今、これを乗り越えることができた未来では、「BC(Before Corona) 」「AC (After Corona) 」といわれる世紀の大転換が起こると予見されています。

かつて疫病による人口激減が賃金上昇を引き起こし、労働の機械化が一気に進行した産業革命後のヨーロッパのように、コロナ感染拡大によって、これまでの生活の変化を余儀なくされ、労働のIT化やAI化への変革が後押しされつつあります。

一方、人同士の距離感の拡大によって排他的風潮と疎外感が広がり、世界の分断化だけではなく、社会の管理・監視化が進むことが懸念されています。コロナ感染拡大は、もはや伝染病との戦いである以上に、信頼と協調に基づく社会生活、ひいてはヒューマニティと人権への挑戦となっています。

奈良・大峰山の石仏観音像

蓮華座

さて、仏陀の悟りの姿である仏像は、両足または片足の甲を反対側の腿の上に乗せる姿勢(結跏趺坐または半跏趺坐)で座っています。

不自由でありながらも、もっとも身体を安定させるため、禅定(ぜんじょう)の修行法として、蓮華座とも呼ばれます。

仏陀は、世界そのものを、蓮華に喩えました。また宇宙を一輪の蓮華の上に立ち現れる世界(小宇宙)の無数の集合体(大宇宙)として表し、さらにその大宇宙が無数に点在する教えを説いています。この光景は、奈良・東大寺大仏さまの蓮弁に「蓮華蔵世界」として1300年前に刻まれました。

蓮華は、泥の中で育まれる清浄心の喩えでもあります。煩悩にまみれた世の中でも、汚れのない心のあり様が立ち現れることの象徴です。さらに私たちひとりひとりが、かけがえのない命の華に他なりません。

有限の中で無限に目覚める

外出自粛や自宅待機という社会的な自由が阻まれる中、瞑想をすることで心の安静を保つ乗り越え方があります。

蓮華座を組んで静かに座ると、有限な身体の制約の中で、心が無限に開かれていくことが感じられます。 無際限の宇宙に向かって自我を解き放つことで、自分がなぜこの世に存在するのか、何をしなければいけないのか、どこに向かいつつあるのか、真実を求めていく限り、いつしか答えも自ずと立ち上ってくることでしょうか。

その先に開かれてくるのは、すべてが絶え間なく流転する、という自然の本性であり、私たち自身も自然の一部である気づきです。

すべてが相互につながり合い、支えあっている自然の命こそが、私たちの存在の本源的な要素であることに目覚め、地球という命を守るために、新しい自粛の機運が、これまで以上に高まることが願われるばかりです。

命の源であり、命そのものである地球

叡智に向かう選択

1300年前の蓮の種から復活した蓮は、今年も、私が愛してやまない古都・奈良で花を開かせます。 

時空を超える蓮のような清らかな未来を思い描きながら、自然の叡智への目覚めとともに、「効率優先」のこれまでのグローバル化へ逆戻りするのではなく、「いのち優先」のグローバル化の始まりを祝福するものであってほしい、と願われるところです。

コロナ感染拡大と地球温暖化も、ともに私たちの命に関わる重大な危機です。私たちの選択によって、地球の汚染がどれほど緩和されるか、奇しくもコロナ危機は、私たちに示してくれました。

人の命とともに、大元である地球の命を守りながら、自然の智恵によって清められる新しい時代の開花を願いながら…

合掌

令和2年4月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Media Art League

East meets West, North meets South through “Media = Art + Message”

Photographs & Text by Miro Ito/Media Art League. All rights reserved.

【第17回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.16 国境を超えて地球を愛する 

2020-01-03

新年明けましておめでとうございます。

皆様にとって新年が、ご多幸の年となることをご祈念申し上げます。

新たな10年の試練

持続可能な未来をどう描くか、いまや世界は試練にさらされています。地球規模での気候変動が予測を超えた速さで進み、世界気象機関(WMO)によると、過去5年間は観測史上、最も暑かった5年間でした。私たちに今必要なのは、地球環境の持続性にかかわる脅威と取り組む生き方を、真摯に求めていくことです。

センス・オブ・グラティテュード

私たちのいのちは、地球のいのちとひとつです。地球の健全さを私たち自身のことと考え、最優先課題として、私たち自身の暮らし方と結びつけ、新しい価値体系を生み出す生き方へと、ともに歩むということを、実践していきたいものです。持続可能な生き方の基本は、私たちが生かされている自然環境を慈しみ、自然の恩恵に感謝することです。慈しみと感謝の連鎖が、気候変動に歯止めをかける意識を育み、持続可能な未来を構築できるのではないでしょうか。

人類という真の国籍

地球温暖化には、国境がありません。地球を守るには、人類という単位が必要です。いまこそ「人類という真の国籍」(H.G. ウェルズの言葉)に目覚めていくべきときです。

人類愛、自然愛、地球愛

自然を慈しむこころは、神道の基本であり、仏教では、すべてのつながりを宇宙の真理として説いています。「隣人を愛する」というキリストの教えは、人類愛を根底にしながら、生きとしいけるものへの愛へと開かれていくものです。人も自然も、水も空気も、光もエネルギーも、循環する万物のすべてに感謝に満ちた態度で臨むこと。日々の瞬間瞬間に、いまここで生かされていることに感謝し、人類愛、自然愛、地球愛に向かって開かれ、お互いにつながっていくこと_。私たちの希望は、私たちの愛あるつながりと行いに帰結するのではないでしょうか。

本年も、東西南北のつながりと心の連帯を訴える文化芸術プロジェクト「光と希望のみち」をどうぞご一緒くださいませ。新年もどうぞよろしくお願いいたします。

令和二年一月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ
Media Art League

East Meets West, North Meets South through “Media = Art + Message”

Photographs & text by Miro Ito/Media Art League. All rights reserved.

Photo (above) The Afrasiab painting (part), Afrasiab Museum, Samarkand, Uzbekistan (7-8th century CE)Photo (below): A statue of Apollo reclining Buddha-like (from [former] Portuguese Royal Family Collection), National History Museum, Rio de Janeiro, Brazil​​

【第16回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.15 アテネ・チュニス・奈良:世界の3つの古都を巡る、東西・南北文化の源流への旅

2019-10-07

本年1月のアテネに続き、先月9月21日から10月5日まで、アフリカ大陸チュニジア共和国のバルドー国立美術館にて、「光と希望のみち」展が開催されました。

2016年5月にNY国連本部でスタートして以来、8カ国10箇所目の巡回先となり、主催は在チュニジア日本国大使館、チュニジア文化省、国立バルドー美術館、共催は日本カメラ財団、メディアアートリーグです。 

(チュニジア国立バルドー美術館「光と希望のみち」バナー・東大寺戒壇院多聞天立像[国宝、8世紀})

アテネでは、日希修好通商航海条約締結120周年記念事業キックオフ行事として、そしてチュニジアでは、在チュニジア日本国大使館開設50年を記念する催しとなりました。これらの二つの式典は、展覧会のオープニングを兼ね、ストラスブールやリオ・デ・ジャネイロ、メキシコシティに引き続き、共催者ならびに作者として、スピーチをさせていただく大変名誉な機会を頂戴いたしました。

(チュニジア日本大使館開設50年を祝福するエラビディン文化大臣とナイティギル館長のご挨拶を挟んでの、清水信介大使のご挨拶)

 カルタゴとユーラシアの接点

アテネでは、ギリシャから奈良までヘレニズム文化の伝搬の中に、東西文化の源流を辿ることで、すべてが一つであり、皆つながっていることを提示させていただきました。

そしてチュニジアでは、古代オリエント文明に遡る、カルタゴ帝国(前814年~前146年)とユーラシア大陸の文化遺産との接点をあぶり出す試みとなりました。

地中海世界において、クレタ文明(前20世紀~前14世紀)の後、ミケーネ文明(前16世紀~前12世紀)を受け継いだフェニキア文明(前1200年~前800年頃)がカルタゴ帝国として花開き、700年の間、海の交易で栄え、ギリシャ文化と混じり合いました。アレクサンドロス大王によって、前326年以降、全オリエント地域が統一されると、エジプトからカルタゴ、メソポタミア、ペルシア、インドにいたる広大な地域で、ギリシャ文化と多文化が豊かに融合し合って、国際的なヘレニズム文化が生み出されました。 

(バルドー美術館所蔵「笑み面」[前4~前3世紀]と
春日大社所蔵「地久面」[重要文化財、1185年]/撮影協力:バルドー美術館・春日大社)

こうした歴史を紐解きながら、スピーチでも触れさせていただきましたが、カルタゴ帝国と日本文化をつなぐ接点があるとすれば、国立バルドー美術館所蔵のカルタゴの仮面かもしれません。同館の特別な許可を得て撮影させていただいた紀元前4~3世紀の陶製の笑み面、その魔を寄せ付けない爽やかな笑顔は、舞楽の地久面(春日大社蔵、重要文化財、1185年)との共通点が見出せます。

両者にはおよそ1500年の開きがあるものの、海のシルクロード諸国の王朝芸能の流れを汲む舞楽の中で、発祥が謎とされる地久面のルーツは、私見ながら、カルタゴにあるのかもしれないと思えるほどです。

(伊藤みろのスピーチの様子、2019年9月21日バルドー美術館「光と希望のみち」オープニング) 

伎楽面・舞楽面のルーツを求めて

またギリシャ国立考古学博物館蔵の伝アガメムノンの黄金マスク(前1550~1500年)には、遥か3500年前のミケーネ文明の栄華が偲ばれます。金・銀・銅・陶製の埋葬用の仮面は、生前の顔に似せたマスクを被せることで、不死の存在とする意図があったといわれます。

(伝アガメムノンの黄金マスク[前1550~1500年]とギリシャ大理石製喜劇面[前2世紀]、撮影協力:アテネ国立考古学博物館)

呪術や祭祀などの宗教的儀礼を中心に、仮面は不可知な世界と私たちをつなぐ変身の装具として、文化の中で表されてきましたが、それを演劇にまで高めたのは、古代のギリシャでした。紀元前2世紀の大理石製ギリシャ喜劇面は、広い意味で、伎楽面や舞楽面のルーツといえます。

当日は、チュニジア国営TV局(第一チャンネル)から取材をいただきました。チュニジアとギリシャ、そして日本に共通する類似点を辿り、写真作品として見せることで、私たちの文化の源流もひとつであり、そのことから東西・南北を貫く連帯の心を訴えることができたとしたら、本望に存じます。

(チュニジア国営TVの記者との記念撮影)

東京「奈良まほろば館」の講演会

さて10月13日(日)には、東京日本橋三越前にある「奈良まほろば館」で講演会を行い、「正倉院展を前に~ヘレニズム文化と奈良」について語らせていただきます(午前11:00~12:30分・午後13:30~15:00)。

その際には、中央アジアにおける仏像の起源を探りながら、その伝搬ルートと奈良の仏像に残されたヘレニズム文化の影響について、ギリシャやチュニジア、ウズベキスタンやパキスタン等を取材した成果をもとに、私見を述べさせていただきたいと存じます。 

ご興味のある方は、ご拝聴いただきたく、以下のURLをご参照くださいませ。https://www.mahoroba-kan.jp/course.html

(東京「奈良まほろば館」での講演会「ヘレニズム文化と奈良 正倉院展を前にして」10月13日11:00〜12:30&13:30〜15:00)

奈良シルクロードシンポジウムと「光と希望のみち」里帰り展

また10月19日(土)には、奈良県・文化庁・国土交通省の主催にて「2019 奈良シルクロードシンポジウム」が、平城宮跡歴史公園・平城宮いざない館にて開催されます(13:30~16:30)。

基調講演は、奈良国立博物館・松本伸之館長が「シルクロード文化の結晶 奈良」についてお話をされるほか、本年1月の「光と希望のみち」展の会場となったギリシャ国立ビザンチン・キリスト教博物館より、ゲスト講演者が来日されます。ペリアンドロス・エピトロパキス展示・交流・教育部長&エフィ・メラムヴィリオタキ東アジアコレクション学芸員のお二人が、ギリシャ側から、シルクロードとヘレニズムおよびビザンチン文化の旅について、お話をされます。 

私はパネリストとして、第二部に参加いたします。また同時開催で世界巡回展「光と希望のみち」の里帰り展を同館で開催いたします(10月27日まで)。

さらにシンポジウム終了後は、これまで海外で披瀝してきた「伎楽バレエ」(踊り手:春双、芸術監督:伊藤みろ)を、公式での国内初の演舞予定です。

ご参加いただける場合は、下記URLにてお申し込みくださいませ。https://www.sap-co.jp/event_detail/silkroad2019_1/

(「奈良シルクロードシンポジウム2019」10月19日開催予定)

☆☆☆☆☆

本年度は、古代ミケーネ文明の発祥の地であるギリシャから、古代フェニキア文明を継承する旧カルタゴ帝国のチュニジアまで「光と希望のみち」の思いをつなげることができ、大変素晴らしい体験ができました。

ビザンチン・キリスト教博物館、バルドー国立美術館、在ギリシャ日本国大使館、在チュニジア日本国大使館をはじめ、主催・共催およびご後援をいただいた各団体、撮影のご協力をいただいた皆様に、心から厚く御礼を申し上げます。これからも世界各地で世界巡回展「光と希望のみち」を通して、ライフワークとして、奈良を中心にシルクロードの遺産を受け継ぐ日本文化の1400年の深層、そしてそこから見えてくる未来への連帯と寛容へのメッセージを、発信させていただきたいと誓っております。

「光と希望のみち」は、これからも続きます。ぜひご一緒くださいませ。

令和元年10月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Photo & Text by Miro Ito/Media Art League. All Rights Reserved.

(文中敬称略)

【第15回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.14 フランク・ロイド・ライトが受け継いだ日本建築のDNAを求めて

2019-05-02

平成から令和に変わる時代の大きな節目を迎え、在シカゴ日本国総領事館広報文化センターにて「Edo/Tokyo — Seen through its Edifices(建物にみる江戸・東京)」展を4月15日から30日まで、在シカゴ日本国総領事館、日本カメラ財団およびメディアアートリーグにより、共催いたしました。

本年は、明治維新150周年の翌年、そして東京オリンピックの前年という狭間の年に当たることから、江戸から明治への移行期の東京をテーマにしました。これまで写真によって紹介される機会がほとんどなかった明治の草創期である1870年から1877年にかけて、日本との条約の交渉にあたっていたイタリア全権公使バルボラーニ伯爵 (Conte Raffaele Ulisse Barbolani [1818-1900]) が故郷に持ち帰った写真を展示いたしました。

(伊藤直樹シカゴ日本国総領事の挨拶)

トークイベント

復活祭休暇の前日にあたる4月18日(木)には、スペシャルトークイベントを開催しました。当日は66名の招待客で賑わい、伊藤直樹シカゴ総領事のご挨拶にいわざなわれ、江戸から明治への東西文化の出合いを追体験いただきました。

同総領事館広報文化センターでは、2017年以来、半年に一度の割合で、展覧会を共催させていただいていますが、毎回、日本文化についての独自の洞察を紹介する関連レクチャーも、講師として担当しています。

今回は、江戸から明治へと大きな変革を受けながらも、1400年以来、受け継がれ進化し、モダニズムの伝統とともに、現代においても深化しつづける「日本建築のDNA」について、お話をさせていただきました。

(伊藤みろレクチャーの様子)

特にモダニズム建築の世界的な「聖地」の一つである、シカゴとの接点を探る意味で、フランク・ロイド・ライトの建築作品への影響を、日本建築の1400年の伝統の中から、あぶり出す試みを行わせていただきました。

実際、一般にはあまり知られていませんが、明治維新を契機に、日本の建築が西洋の様式を急激に学んでいく最中、まさに同時並行で、19世紀末以降、西洋では日本の浮世絵が印象派絵画に大きな影響を与えたように、西洋建築においても、日本の社寺や家屋に影響を受けた「逆の流れ」が急速に展開していたのです。

とりわけ、コロンバスの新大陸発見400年を記念したシカゴ万博(1893年)において建てられた日本パビリオン「鳳凰殿(Ho-o-Den) 」は、歴史主義様式の復古的な建築からの脱却を図ろうとしていたアメリカの建築界に、衝撃をもって迎えられました。それを代表するのがフランク・ロイド・ライトで、万博の翌年の1894年には、壁を作らない大きな平面を特徴とするプレーリースタイルが発表され、モダニズム建築運動の発端の一つとなりました。

もとより、シカゴ万博の鳳凰殿(日本パビリオン)は、宇治の平等院鳳凰堂をモデルにした建物でしたが、そこに結実された日本文化1400年の伝統、とりわけ柱と梁で作られた壁を作らない木構造、多重の屋根やひさしの意匠、寝殿造り様式に見られる、庭園を中心に蔀戸(格子)や妻戸(観音扉)を開けると、外部空間と内部空間が溶け合う空間設計が、西洋建築のあり方を根本的に変える要素として、受けとめられました。

(シカゴ万博「鳳凰殿(日本パビリオン)」1893年築、1946年焼失、
出典: シカゴ美術館アーカイブ)

日本の建築は、仏教とともに渡来した隋・唐の様式をもとに、飛鳥・奈良時代に木質構造の仏教建築が花開きました。神仏集合の伝統とともに、平安〜鎌倉〜室町時代を経て、高度に深化した木造の寺院建築は、家屋建築においても、時代時代において、社会構造や生活様式の変化、精神性や美意識の発展とともに、日本独自の発展を遂げ、寝殿造り、書院造り、数寄屋造を生み出していきました。

そうした解説を行いながら、日本建築のDNAの究極の形を近世、とりわけ15世紀末〜16世紀以降の「接客空間」としての茶席、すなわち茶室に凝縮された表現主義的な小宇宙や有機建築の中に見出していくレクチャーとなりました。

(トーマス・ガウバッツ准教授の講義)

続くレクチャーは、ノースウェスタン大学のトーマス・ガウバッツ准教授による江戸庶民の生活空間についてでした。明治維新後も、庶民の住居空間が変わらなかった点について、式亭三馬の「浮世床」を題材にとりながら、ユニークに紹介していただきました。

建築、音楽、身体におけるさまざまな東西の出合い

トークイベントの最後には、滝廉太郎の「荒城の月」をバレエとして仕立て、国際派バレリーナ春双が舞いました。芸術監督は私自身が務め、明治の文明開化の波の中で、過ぎ去る行く江戸を偲びながら、擬洋風スタイルの衣装をデザインし、明治の東西文化の出合いを身体を通して、しなやかに示すことができました。音楽は、Hagiが琴や波の音、白州の玉砂利を踏む音などの日本的な要素を使って、サウンドデザインを手がけました。

(バレエ「荒城の月」を踊る春双)

「建物にみる江戸・東京」展は、2018年8月〜9月に日本カメラ財団JCIIギャラリー(東京千代田区)で開催されました。このたびのシカゴ展の後は、東京オリンピックとの関連から、今後、他の国へも巡回できたらと願うところです。

イタリア公爵が持ち帰ったまま135年間封印されていた江戸・東京の景観は、銀座大火(1872年)、関東大震災(1923年)に続く第二次世界大戦の東京空爆により、いまは失われてしまった往時の東京を捉え、建築史においても、類い稀なる「東西文化の出合い」を克明に伝えています。

明治時代以降、同時に逆方向で進んでいた東西二つの建築の相互影響を考えるとき、現在、日本の建築家が世界的に大活躍する土壌も、透けて見えてくる気がします。

末筆ながら、このたびの展覧会開催のためにご尽力いただいた多くの皆さまに、共催者を代表して、心から厚く御礼申し上げます。

令和元年年5月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

(在シカゴ日本国総領事館広報文化センター)

(更新: 2019年6月21日)

【第14回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.13 ギリシャと奈良をつなぐヘレニズムの華

2019-01-16

「光と希望のみち」展は、2016年5月にNY国連本部で始まり、7カ国8都市目の巡回先として、神話と東方教会の聖地であるギリシャへやってまいりました。

日希修好通商航海条約締結120周年記念事業キックオフ行事として、ビザンチン・キリスト教博物館で1月16日から開催されます(2月10日まで)。

開催場所のビザンチン・キリスト教博物館は、ギリシャ国会議事堂(旧王宮)やフランスやアメリカ、オーストリアなどの各国大使館、博物館が立ち並ぶアテネのメイン通り、ヴァシリシス・ソフィアス大通りにあります。

この博物館の二階の企画展ギャラリーにて、天平彫刻の最高傑作である東大寺の至宝を中心に、春日大社の舞楽面を加えた奈良の国宝・重要文化財46点が、写真作品として、ギリシャで初めて紹介されます。もとより同博物館では、日本をテーマにした企画展は、1914年の創設以来、初めてのことだそうです。

アテネの聖地の中の「平城京」

世界でも有数のキリスト教博物館の二階に、日本の神仏混交の聖地である「奈良」がすっぽり入ってしまったような、奈良の神秘的かつ聖なる雰囲気が、厳かな静けさを湛えています。

“Road of Light and Hope” at the Byzantine and Christian Museum, Athens

とりわけ大仏さまの作品がかけられた広間からは、アテネで一番高いリカヴィトスの丘上のアギオス・ヨルギオス教会が望まれ、神々を抱く天の玄関にいるような神妙な景観が開けています。

アクロポリスの丘と双璧をなす、標高227mのリカヴィトスの丘は、カラスの凶報により、女神アテナが落とした岩が山となったといわれますが、ギリシャも、日本と同様、多神教による汎神観の脈絡が自然と共に今も息づいているように思えます。

View from the terrace of the Byzantine and Christian Museum

女神アテナの岩山を眺めていると、山自体がご神体の奈良の三輪山を思い出します。頂上のヨルギオス教会は、元伊勢と呼ばれる檜原神社にも思えてきます。

ヘレニズム文化の華

もとより、仏像や仮面も、ギリシャの神々を喜ばす奉納像(アガルマ)を起源とすることから、天平彫刻に反映されたヘレニズム文化の影響を、古代の東西文化の交流の証として紹介する同展は、ギリシャへの「恩返し」のような趣旨を担っています。

ここでは、古代ギリシャの神々も、イエスキリストも、展覧会の中の仏陀も天部も菩薩も、伎楽面も舞楽面も、清らかな空気に包まれて、清涼感と静粛を湛えて共存しているような、平和そのものの調和があることを感じさるを得ません。

Main entrance of the Byzantine and Christian Museum

この調和のとれた平衡状態を目指していくのが「光と希望のみち」展の伝えるメッセージであり、そのモデルは1400年前に「和」を唱えた聖徳太子にさかのぼるものです。

アレクサンダー大王の東方遠征とともに、ヘレニズム文化が中央アジアへ伝搬し、仏像となって中央アジアからカシュガル、コータンまたはクチャ(〜トルファン)、敦煌、長安を通って奈良に伝えれらた「叡智」とは、こうした共栄共存の道に他なりません。

会場であるビザンチン・キリスト教博物館のアイカテリーニ・デラポルタ館長も、こうした共存の意義を発信するために、同博物館で、日本の仏像展を開きたかったそうです。物質的な世界の価値観では見えにくなってしまっているものの、世界の異なる宗教行事や宗教美術に結実されている共通の「光」があることを、このたびの展覧会で見せていきたいそうです。

東西文化の源流をつなぐヘレニズム文化の華麗な変遷を、ギリシャから奈良まで辿ることで、すべてが一つであり、皆つながっていること。皆それぞれがかけがえのない華であることを訴えていくのが、「光と希望のみち」展の趣旨になり、それを奈良の世界遺産や国宝・重要文化財の写真や映像作品、講演会で見せていくものです。

日希修好通商航海条約締結120周年記念式典

1月14日の記念式典では、ビザンチン・キリスト教博物館のアイカテリーニ・デラポルタ館長、ゲオルゲ・カトロウガロス・ギリシャ外務副大臣、清水康弘駐ギリシャ日本大使がご挨拶されましたが、ご挨拶の中で「光と希望のみち」展につきましても、「日本とギリシャの古代からのつながりを示す最高の展覧会」とのお褒めの言葉を頂戴いたしました。

それは、まさしく奈良の1400年の伝統力が培ってきた芸術の力、そしてシルクロードを経て、東西文化の融合の結果花開いた、日本独自のヘレニズムの華への賞賛にほかなりません。

His Excellency Ambassador of Japan to Greece, Mr. Yasuhiro Shimizu

なお1月29日(19時30分〜21時)には、ビザンチン・キリスト教博物館での講演会も予定しています。詳細は、ビザンチン・キリスト教博物館のサイトをご参照くださいませ。

http://www.byzantinemuseum.gr/en/?nid=2371

ギリシャ展の様子は、また第二弾をご報告したいと思います。

末筆ながら、この度の展覧会開催のために、ご尽力いただいた関係各位に、心から感謝を申し上げたいと存じます。

アテネより

2019年1月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

Text by Miro Ito /Media Art League. All Rights Reserved.

“Road of Light and Hope – Voyage of the Hellenism to Japan”

Photographs and Text by Miro Ito

Byzantine and Christian Museum

場所:Leoforos Vasilissis Sofias 22, Athina 106 75, Greece

期間: 16th – 28th January, 2019

共催:Byzantine and Christian Museum、在ギリシャ日本大使館、日本カメラ財団、メディアアートリーグ

後援:日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー

撮影協力:東大寺、春日大社、奈良国立博物館

WEBサイト:http://www.byzantinemuseum.gr/en/

更新:2019年1月26日

【第13回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.12 地球という<いのち>を思いやる

2018-10-30

Poster:”Road of Light and Hope”, Museo Nacional de las Culturas del Mundo, Mexico

共感の連鎖

災害や疫病、戦争や貧困という世界の課題以外に、地球温暖化や環境汚染といった差し迫った問題は、もはや私たちを待ってはくれません。地球を一つの生命として捉え、いのちとして共感し合い、地球を守らなければならない時代がやってきました。

世界の未来に答えるために、思いやりを持って、行動すること_。私たち自身が問題の一部ならば、同時にわたしたちこそが、解決の一部なのです。私たちひとりひとりの地球への思いやりは、小さなさざ波にすぎないにしても、音叉のように、その波動を、世界全体に広げていけるのではないでしょうか。

大地に小さな石が存在しているように、宇宙に星が存在しています。石も星も、人も、動植物も、仲間としてお互いを補い合い、支え合っているのです。この世界観は、東西に共通する普遍性をもつものです。

「1片の木を割っても、私はそこにいる。一つの石を持ち上げても、そこに私を見出すであろう」(イエスの言葉「トマス福音書」より)

極小の塵から、極大の宇宙までを一体的に捉える、東西に共通する叡智こそが、「地球」といういのちへの思いやりのある、行動の規範だと考えるところです。

 

全ては「生き物」としてひとつである

さて、在外公館や国際交流基金からのお力添えにより、展覧会「光と希望のみち」(*)にちなみ、日本国と諸外国の周年行事や文化機関において、大変光栄にも、スピーカーとして招かれる機会が増えてまいりました。

(*共催:在外公館、国際交流基金、メディアアートリーグ、日本カメラ財団ほか、後援:日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー)

2年前のストラスブール欧州評議会でのスピーチからはじまり、トロント国際交流基金、シカゴ大学、リオデジャネイロ「日本月間」オープニングイベント、そして来月はメキシコシティへ_。

テーマは、東洋の華厳思想、すなわち西洋の新プラトン主義と共通する「すべては一つであり、一つはすべてである」ということ。そして「宇宙も、一つの<いきもの>であり、全てのうちに<共感>なる相互作用がある」(新プラトン主義)というものです。

奈良に残され、受け継がれているヘレニズム文化の影響を色濃く残す、日本の古代の有形・無形の世界遺産をテーマに、そうした東西間の<共感(シュンパティア[συμπαθεια])>を相互に喚起させるために、展覧会・映像上映およびレクチャー形式で、訴えていくものです。

1400年前に遡り、シルクロードを介して東西文化の源流をつなぐ傑出した国宝・重要文化財の写真作品を「証拠」として見せながら、私たちが「皆ひとつであり、すべてがつながっている」ことを伝える趣旨を担っています。

 

リオからメキシコシティへ

本年7月には、ブラジル日系移民110周年を記念し、リオ・デ・ジャネイロで開催された「日本月間」での写真展「光と希望のみち」では、記念行事のオープンングでレクチャーを行い、映像上映もさせていただきました。

行事の後には、列席されたアメリカ総領事から、<共感>の言葉をいただけたことが、貴重な収穫となりました。またリオ州立大学での体験も、東西文化の交流史を地球規模で示していくことの重要性につき、確信を強めてくれました。(※日本月間には、3週間半の開催中に、6万2000人の訪問客がありました。)

来月のメキシコシティでは、日墨外交関係樹立130年を記念するイベントが、メキシコ国立多文化博物館において開かれます。近年にない規模の大型日本文化紹介イベントが行われ、世界巡回展「光と希望のみち」も参加させていただきます。

11月8日の記念式典では、高瀬寧(やすし)メキシコ日本国大使、国際交流基金メキシコ日本文化センターの杉本直子所長に次ぎ、私もスピーチをさせていただく予定です。<共感>の輪が、これよりメキシコへも広がることを願う次第です(展覧会は12月3日まで)。

 

見えないものを見る

Poster : “Signs of the Intangible”, JIC Hall / Consulate-General of Japan in Chicago

 

一方、日加修好90周年を記念し、在トロント日本国総領事館のご後援のもと、5月から6月末までトロントの日系文化会館で開催された「隠し身のしるし(Signs of the Intangible)」展は、11月1日から、在シカゴ日本国総領事館広報文化センター(**)へと巡回させていただくことになりました(11月28日まで)。

(**共催:メディアアートリーグ、日本カメラ財団、助成:東京倶楽部、 後援:日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー)

同展は、日本の1400年の心体景観をテーマにした写真展です。

もともと超自然的なものへの奉納として芸術が始まり、見えない自然の力(カミ)が仏教の受容とともに、形を得て仮面となり、仏像・神像となり、さらに身体芸術となりました。1400年の歳月とともに、高度に洗練され、磨かれ、深化さえもされて、能から前衛舞踏に至るまでの、日本独特の心体文化を形づくってきました。

そして仮面が見えないものと見えるものをつなぐ「境」であるならば、身体は、神仏集合の1200年の伝統において、悟りを目指す修行の「場」と考えられてきました。

こうした日本の奉納の身体芸能の独自の歴史については、ノースウェスタン大学の招待により、11月16日の特別レクチャーで、お話させていただく予定です。

私の試みは、過去と未来をつなぎ、東西文化の「橋掛かり」をつくることですが、講義の中では、身体を通して、私たちひとりひとりが、生き生かされているという<永遠なるもの>とつながりうる心体文化について、語っていきたいと思います。

もとより有限ないのちは、宇宙の無限の生命循環の中で、永遠なものへと帰ってくわけです。現実世界では、心身一如を通して、永遠なるものとつながることで、見えないもの、見えるものも、すべてがつながっていることに、気づくことができるのではないでしょうか。

在シカゴ総領事館JICホールでは、11月13日午後6時より、伊藤直樹総領事からご挨拶をいただき、アーティストトークイベントを行います。

また伎楽をバレエとして復興させた「伎楽バレエ」(踊り手:春双)も、シカゴでは二度目の発表になりますが、トロント、リオ、そして11月8日のメキシコに続き、披露させていただく予定です(芸術監督:伊藤みろ)。

✨✨✨✨✨

11月にシカゴ、そしてメキシコティへお越しいだだける際には、ぜひご来場いただけるようでしたら、大変幸せに思います。

東西の交流の歴史とつながりながら、地球への思いやりを乗せて

(文中敬称略)

2018年10月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Text by Miro Ito /Media Art League. All Rights Reserved.

【第12回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.11「トロントからリオへ:平和への祈りと巨像の道」

2018-08-20

(Mês do Japão 2018 フライヤー)

トロントからリオへー平和への祈りと巨像の道

残暑お見舞申し上げます。

本年は、長崎の平和祈念式典に、国連のグテレス事務総長が初めて参列し、核なき世界平和への祈りが、国境を越えてさらに広がることが願われました。

私自身、マザーテレサが毎日唱えていたという「フランシスコの平和への祈り」を厳かに反芻しました。自らを「平和の道具」とならしめるための、祈りのことばです。

主よ、わたしをあなたの平和の道具としてください。 

憎しみのある所に、愛を置かせてください。

侮辱のある所に、許しを置かせてください。

分裂のある所に、和合を置かせてください。

誤りのある所に、真実を置かせてください。

疑いのある所に、信頼を置かせてください。

絶望のある所に、希望を置かせてください。

闇のある所に、あなたの光を置かせてください。

悲しみのある所に、喜びを置かせてください。

… … … …    … … … …

(以下続く[*])

さて、6月のトロント日系文化会館でキックオフとなった新しい世界巡回展「隠し身のしるし (Signs of the Intangible) 」に続き、7月には外務省の招待により「ブラジル日系移民110周年記念事業」のため、トロントからリオデジャネイロを訪問しました。

中央郵便局の歴史的な建物が文化センターとなった「リオ郵便局文化センター (Centro Cultural Correios) 」を会場に、「日本月間 (Mês do Japão)」が行われ、私は、5カ国6都市目の展示となった世界巡回展「光と希望のみち(Road of Light and Hope) 」を開催させていただきました(共催:リオデジャネイロ日本国総領事館、国際交流基金、日伯文化協会、メディアアートリーグ、日本カメラ財団、後援:郵便局文化センター、110周年記念委員会、日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー)。

リオの「日本月間」は、ブラジル三大紙聞の一つ「Segundo Caderno」紙で大きく取り上げられ、オープニングイベントには、合計300人くらいの方々にお集まりいただきました。

東大寺や春日大社、奈良国立博物館の特別協力のもと、7年がかりで撮り下ろした極めて貴重な奈良の国宝・重要文化財を紹介する写真作品シリーズを前に、星野芳隆総領事、日伯文化協会会長、郵便文化センター館長からご挨拶をいただきました。その後、私のショートレクチャー&映像上映に加え、私自身が芸術監督を務め、伎楽をバレエとして復活させた「伎楽バレエ」 (踊り手:春双) も、会場に華を添えてくれました。

このイベント「日本月間(Mês do Japão)」へは、7月4日から29日までの3週間半の間に、6万2000人が訪れてくださいました。

 

二つの巨像

さてリオデジャネイロといえば、標高710mの「コルコバードの丘 (Morro do Corcovado)」の上に、両手を広げて聳え立つ「キリスト像 (Cristo Redentor)」が有名です。

奈良の大仏さまが”復興”のシンボルならば、リオのキリスト像は”独立”のシンボルです。歴史を紐解くと、かつての宗主国ポルトガルは、ナポレオンの侵攻により1808年から14年間、ブラジルのリオデジャネイロに遷都していた時期がありました。その後、ナポレオンが倒れたのち、リスボンに国王が戻り、その余波の中で1822年、ブラジルが独立を果たしました。その独立100年を機に工事が始まり、1931年に高さ38メートルのキリスト像が建てられました。

その威容は、リオの人々の心の拠り所であり、世界中の訪問客で溢れかえっています。もとより巨像には、奈良の大仏さまと同様、宗教の垣根を越えて、人々の心をつなぐ役割があるように思われます。祈りにおいて、皆が一つになれるからです。

祈りの内容は十人十色ながら、冒頭の「フランシスコの平和への祈り」は、「慰められるよりも慰め、理解されるより理解し、愛されるよりも愛することを求めさせてください」と続きます。そして結句では「与えることで人は受け取り、忘れられることで人は見出し、許すことで人は許され、死ぬことで人は永遠の命に復活する」と結ばれます[*] 。

まさに「愛されるよりも愛すること」「許すことで許されること」にこそ、平和への道があるように思います。そして言葉の上だけではなく、人々の行為がその種となることで、キリストや仏陀の心とも一体となれるように思うのです。

巨像には、自らが平和の種となれることを示し、光となれること(自灯明)へと導く道としての力があるように思われます。

 

巨像の道(グレイトブッダロード)

さて、リオ州立大学での特別講義のテーマは、昨年のシカゴ大学での講義と同様、盧舎那大仏が伝来した「シルクロード叡智の道」についてでした。

アジアの巨像を含む石窟仏教寺院の伝統は、1世紀頃のバーミアン(バクトリア地方)からカシュガルへと抜け、タクラマカン砂漠とタリム盆地の上方を西へ進む天山南路を、クチャ(キジル) 経由で、トルファンに至り、敦煌、雲崗、龍門において開花しました。その西域からの伝統が、唐王朝のときに奈良へと繋がった道を「叡智の道」として紹介しました。

もとより大仏さま造立の背景にある叡智とは、華厳の教えが説く「皆がひとつ」であり、「誰もがかけがえのない華である」というものです。その華厳の心を、「日本月間」を飾るオープニングのレクチャーにおいて、大仏さまや伎楽面の映像作品を通して訴えさせていただきました。イラン出身の移住者の女性からは、「皆がひとつであり、それぞれが多様な華であること」はブラジルの心と同じであり、大いに賛同いただきました。

またリオ州立大学での講義は、ブラジルの若者たちに、予想以上に支持される好結果となりました。1400年前の多文化主義を体現したかのような東大寺の伎楽面・春日大社の舞楽面は、500年以上かけて、ブラジル文化に花開いた多民族主義と重なり合う部分があるためか、1時間半の講義の後は、1時間以上も学生たちと懇談をしました。

盧舎那大仏を「日本の復興の象徴」として紹介するSegundo Caderno紙 (2018.7.4)

聖徳太子が思いみた「和」の心を体現する伎楽面や舞楽面。そして聖武天皇が生きとしいけるものすべての幸せを願って、延べ260万人の国民とともに造立した大仏さま。この夏は、国策として多様性と包容性を掲げるカナダからブラジルへ渡航し、二つの多文化主義の国々で、実に多くの方々にご賛同いただいた体験が、かけがえのない収穫となりました。

この後「光と希望のみち」展は、「日墨外交関係樹立130周年」を記念してメキシコシティを訪れる予定です。

奈良の人類遺産の普遍的な訴求力を通して、平和への祈りの道であり、叡智の道を、引き続き世界に発信していきたいと改めて強く誓う次第です。

さまざまなご支援を与えてくださった関係各位の皆様のご尽力には、心から感謝申し上げ、 平和への祈りを込めて、残暑のご挨拶に代えさせていただきます。

2017年8月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Text by Miro Ito/Media Art League. All Rights Reserved.

注[*] Wikipediaより抜粋

【第11回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.10 「隠し身のしるし」展:日本の1400年の奉納の歴史を探る、聖なるものへの旅

2018-06-11

Signs of the Intangible: Bodyscapes of Japan’s 1400 Years of Performing Arts by Miro Ito

 

日本とカナダの修好90周年を記念する「隠し身のしるし(Signs of the Intangible)」展がトロント日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Center)で開催中です(6月27日まで)。

私が10年前に行ったNY公立舞台芸術図書館(リンカーンセンター)での展覧会「Men at Dance – from Noh to Butoh」(能から舞踏へ)を継承しつつ、現在世界巡回中の「光と希望のみち」展の続編として、東大寺の天平彫刻の最高傑作や伎楽面、春日大社の舞楽面の写真作品を加えさせていただき、「日本の1400年の舞と武の心体景観」を焙り出す展覧会として、再構成いたしました。

この展覧会は、トロントのメジャーなイベントであるトロント日本映画祭(Toronto Japanese Film Festival)(6月7日から6月28日)との同時開催になり、6月21日には、アーティストトーク&ショートムービーの上映会を実施いたします。大変光栄なことに、伊藤恭子総領事にも、ご挨拶をいただきます。トロントへお立ち寄りの際には、ぜひ足をお運びくださいませ。(※詳細は、PDFをダウンロードの上[ pdf download: _signs_of_the_intangible_poster_2018June11]、ご参照くださいませ。)

 

美術の起源を探る旅

さて、この15年間、日本の1400年の芸能史を紐解く思いで、奈良を中心に、有形無形の世界遺産・国宝・重要文化財を撮影・取材させていただきながら、「祈りと奉納の系譜」を、探求してまいりました。

もとより美術の起源には、象徴表現がその大元にあります。原始時代においては、自然の力への崇拝として、狩猟や子孫繁栄への願いのしるしとして、洞窟や岩壁に形象が描かれてきました。宇宙にみなぎる不可視の力を見える形で視覚化させるために、イメージの創造という、文化の根幹である象徴表現が生まれ、祈りの儀式が起こり、神話が語られ、原始宗教が始まりました。

聖なるものを目指すイメージの創造は、記号や文字を生み出し、文明を萌芽させました。そして古代のイメージの創造における頂点ともいえる、エジプトやギリシャの神話の世界においては、現世と神々の世界の交流のために、崇高なる美の世界が追求されました。神の観念の擬人化が行われ、人体像や半人半獣像が作られ、現実と聖なる世界は、奉納や儀式という「場」で結びついてきたのです。

こうした古代ギリシャの奉納像の伝統は、アレクサンダー大王の東方遠征に伴い、西アジアや中央アジアへと伝えられ、仏像の起源となりました。さらに伎楽や舞楽などの仮面芸能も、ギリシャが発祥とされています。

 

心身一如の景観

さて、古代ギリシャの奉納の伝統をシルクロードを経て受け継ぎながら、仏教の禅定の影響のもとに、日本文化においても、心体を「場」として、隠された世界が追求されてきました。

とりわけ鎌倉時代に文化の基調となった禅においては、瞑想以外にも、平常心を通して、無の境地へ向かう道として、技芸が追求されました。武道から、書道、画道、香道、華道、茶道まで、「精神と宇宙の根源が交流する場」としての身体を通して、「心身一如(道元)」を目指す、技芸も「道」となったのです。

技術の習熟を通して、無になり、天地と一体となる自由を獲得することで、その行き着く先は「聖なるもの」なのです。天地と身体と精神の一体化が「道」として目指されてきた心体景観が、日本文化の深淵には横たわっています。

こうした聖なるものに至る道を、仏像などの奉納像から伎楽面や舞楽面などの仮面、そして能や古武道、果ては舞踏、現代舞踊まで、私が25年以上、撮影しているテーマに他ならず、同展「隠し身のしるし」の根幹にあるテーマです。

この度の展覧会は、2020年の東京オリンピック開催に合わせて、日本の1400年の有形・無形文化遺産の伝統の豊かさとシルクロードとのつながりを訴え、東西・南北の世界の心の連帯を訴求していくためのものです。トロント展を皮切りにして、世界巡回を予定しております。お力添えをいただいたご関係の皆様に、主催・共催者を代表して、厚く御礼申し上げます。

 

2018年6月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ代表


開催場所:日系文化会館(Japanese Canadian Cultural Centre, 6 Garamond Court, Toronto, ON, M3C 1Z5 Tel.(416) 441-2345)

開催期間:2018年5月23日から6月27日

開催時間:午前9:00から午後8:00(無休)

イベント:アーティストトーク&映像上映会:2018年6月21日(午後7:00)

共催:メディアアートリーグ、一般財団法人 日本カメラ財団、トロント日系文化会館(Japanese Canadian Centre)

後援:在トロント日本国総領事館、公益社団法人 日本ユネスコ連盟協会

助成:一般社団法人 東京倶楽部

写真&映像作品、文章:伊藤みろ(メディアアートリーグ)

撮影協力(敬称略):東大寺、春日大社、奈良国立博物館、金春穂高(金春流シテ方能楽師)、武田志房・友志・文志(観世流シテ方能楽師)、

室伏鴻(舞踏家)、Sal Vanilla(舞踏ユニット)、春双(舞踊家)

プロジェクトマネジメント&英語編集:Andreas Boettcher (メディアアートリーグ)

その他協力:キャノンマーケティングジャパン、イイノメディアプロ(機材協力)、Canon USA(プリント協賛)、佐河太心(掛け軸装丁)、新井工作所、日本ケアコミュニケーションズ(その他協賛)ほか


Text & Photo by Miro Ito / Media Art League. All rights Reserved.

【第10回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.9「明治150年 世界機運に飛び乗った幕末・明治遣米使節団」

2018-04-22

明治150年を記念して、在シカゴ日本国総領事館広報文化センターにて、「The LAST of the SAMURAI」展が4月10日から開催されています。幕末・明治にアメリカへ送られた使節団、「最後の侍たち」の肖像写真を中心に、アメリカでの歓迎の様子を紹介する49点の写真展です。

主催は、日本カメラ財団、ならびにシカゴ総領事館と日本文化会館(Japan Cultural Center)、共催はメディアアートリーグ。4月25日までは、同総領事館で開催され、その後、5月5日から13日までは、日本文化会館にて開催されます。

4月10日のオープン二ングの際には、伊藤直樹総領事から、シカゴと岩倉使節団とのご縁を含む、機知に富んだ素晴らしいご挨拶を頂戴いたしました。プロデューサーとして、私もショートレクチャーを行う機会に恵まれ、その後にノースウェスタン大学トーマス・ガウバッツ准教授による、江戸と明治の風俗についてのショートレクチャーが続き、最後に舞踊家・新井春双の居合舞「散り際の美学」(プロデュース:メディアアートリーグ、音楽:Hagi)を披瀝させていただき、いずれも大きな反響をいただきました。

 

世界の激動の100年

私の講演のテーマは、幕末・明治の二つの遣米使節団の背景と目的についてでした。同じレクチャーは、シカゴの名門私立大学ノースウェスタン大学でも、ガウバッツ准教授のクラスにて、行わせていただきました。

徳川幕府による遣米使節団は、万延元年にペリー来航(1853年)の翌年に結ばれた日米和親条約の後、日米修好通商条約批准書交換のために、1860年、77人の侍たちがアメリカに派遣されたミッションです。正史・新見正興を団長とする77人の侍の特使に加え、司令官・木村喜毅(芥舟)、船長・勝海舟が率いる96人が、護衛艦・咸臨丸で随行しました。咸臨丸には、福沢諭吉や通訳・ジョン(中浜)万次郎も同乗していました。

一行は、ワシントンとニューヨーク、フィラデルフィアとボストンを訪れ、各地で熱烈な歓迎を受けました。「ニューヨーク・ヘラルド」紙が「星からの珍客」と評し、また16歳の見習い通詞の立石斧次郎が「トミー」としてアメリカの婦人に大人気となり、「トミーポルカ」という歌が流行するなど、その後の侍伝説を生み出していきます。このトミーは、後に長野桂次郎として、岩倉使節団にも随行しました。

時代的には、1860年のアメリカは、アブラハム・リンカーンが大統領に当選した年でした。そして翌61~65年には南北戦争が勃発。大きな時代の変革の波が、世界に押し寄せていました。

ヨーロッパでは「1848年革命」が起こり、君主制国家に抵抗する自由主義・ ナショナリズムの台頭が連鎖的に発生したことで、ウィーン体制が崩壊し、以降1945年までの「激動の100年」が始まっていました。その後の53~56年のクリミア戦争をきっかけに、ロシアのプチャーチンが、ペリーに続いて日本の開国を求めて1854年に長崎に来航。ロシアとイギリスが長崎で接近したことをきっかけに、徳川幕府と英国は、秘密裏に外交交渉を始めることになりました。

一方、ペリーが日本との和親条約を、最初に単独で締結できたのは、ヨーロッパ諸国が当事者としてクリミア戦争に参戦していたため、太平洋地域に優先的に関心を向けられなかった、という裏事情がありました。

世界の激動の波に呑まれるように、日本においても、1853年から1945年までは、激動の100年となりました。大政奉還を原動力に、富国強兵を国策として、「脱亜入欧」を掲げ、「文明開化」のスローガンの下、西洋先進諸国への仲間入りを果たすべく、一気に近代化・工業化への階段を駆け上っていきました。

開国後は、日本の近隣諸国との関係も変化し、それが二度の世界大戦の入り口となりました。そして第二次世界大戦後は、日本は民主国家として再生され、世界的には、植民地の独立をもたらし、帝国主義が終焉しました。

 

副産物としての美術外交

一方、明治維新では、あまりにも短い間に、急激な西洋化が進められたことで、飛鳥時代以来、江戸時代までの1200年以上続いた神仏混交の伝統は、廃仏毀釈政策のもとで神仏分離がなされ、多くの仏像や仏具、仏教行事が排除され始めました。その結果、1897年の古社寺保存法の制定、1929年の国宝保存法までの間、仏像や仏画から、絵巻物、水墨画、琳派、風俗画や浮世絵版画まで、大量の秘宝が海外に流失しました。

これらの貴重な文化財は、今日、ワシントンのフリア美術館やボストン美術館、NYのメトロポリタン美術館、大英博物館などで鑑賞することができます。ちなみにシカゴ美術館にも、全米一といわれる浮世絵版画の大コレクションが収蔵されています。

これらのコレクションにより、その後、日本美術の優れた研究者が数多く生まれ、日本文化への理解が深められたことは、ナショナリズムを超えた世界的な宝物の伝搬と保存、研究という視点からは、別の意義が見えてきます。明治維新をきっかけに、国境を越えた日本の優れた伝統芸術による「美術外交」が、その後の日本文化の深い理解への道を開いたものと考えられるからです。

 

シカゴとのご縁

さて、使節団とシカゴとのご縁は、明治維新後に岩倉使節団が訪問したことでした。

一行は、1871年12月13日に横浜を出発、22日かけてサンフランシスコに到着。翌1月31日にサンフランシスコを出発して、サクラメントへ赴き、そこからシエラ・ネバタ山脈を越える鉄道の旅を経て、ユタ州ソルトレイクシティへ到達。その後、ワイオミング準州でロッキー山脈を越え、ネブラスカ州オマハまでの2900キロの鉄道の旅を遂行しました。アイオワ州でシカゴ行きの列車に乗り換えた後は、どこまでも広大なトウモロコシ畑の続く行程を進み、イリノイ州に入ってシカゴに至るまで、オマハからさらに816キロを鉄道で走破しました。

シカゴへの到着は2月27日で、前年10月のシカゴ大火災でまだ被災の跡が顕著に見られたところへ、正史・岩倉具視が5000ドルを寄付したといわれています(『米欧回覧実記』(久米邦武編著、水澤周訳・注、慶應義塾大学出版会)。一行は、当時世界最高水準と言われたミシガン湖畔の揚水装置や水道システム、最新式の消防機械、二箇所の小学校と商品取引所を視察しました。

とりわけ、シカゴとのご縁を語る上でのユニークなエピソードは、唯一の和装姿、「小道服に髷」の公家装束を纏った岩倉正史が髷をシカゴで断髪したことでした。一行は、丸一日をシカゴで過ごし、夜にはシカゴを発って、首都ワシントンを目指し、さらなる1130キロの旅に向かいました。

 

遣米使節団からのメッセージ

今回、「The Last of the SAMURAI」展をシカゴで開催できたことは、二度の世界大戦を経た激動の100年における怒涛のような体験にも拘わらず、アメリカとの長い友好の歴史を振り返り、未来の世代に向けて、相互理解を深めていくために、大変良い機会になったことと願っています。

かつてシカゴ・トリビューン紙は、岩倉使節団について、以下のような記事を掲載しました。

「日本は未開国の中で最も文明化されており、しかもヨーロッパのどの国よりも古い歴史を持っている。われわれの祖先がまだ未開で裸で暮らしていた頃から、日本には政府も法律も学校も文学もあった」(泉三郎著『堂々たる日本人』祥伝社黄金文庫より)。

すなわち民族や文化、宗教や風俗の違いを越えて、人としての威厳、異質なものを尊重する寛容さ、「仁義礼信智」を根幹に置くサムライ精神がアメリカの人々にも、伝わったのだと思います。

使節団は、その後、ホワイトハウスでジェームズ・ブキャナン第15代大統領に国書を奉呈した際、新見正使、村垣副使、小栗監察は狩衣に太刀を佩く、公家や大名の烏帽子姿でした。4頭立ての馬車に乗ってはいたものの、槍持ちやお供を従えた大名行列さながらの一行を見ようと、沿道や通り沿いの家々の窓から屋根上まで、大勢の人々が群がっていました。その熱狂ぶりは、同写真展でもご覧いただけます。

ハリー条約を改正する目的は遂げられなかったものの、150年後にこの歴史を振り返るとき、分断化の進むアメリカ社会において、異質なものを尊重し、互いに信頼し合い、人としての尊厳を大切にし合うことにこそ、幕末・明治の使節団から時空を超えた意義が読み取れるのです。

これこそ幕末・明治使節団による外交の、今日的なメッセージであり、それが「写真外交」となって、次世代への興味を深めるひとつのきっかけとなることを願ってやみません。その意味で「明治150年」にちなんだシカゴでの「The LAST of the SAMURAI」展は、大成功といえる文化事業となりました。

主催者日本カメラ財団、共催者メディアアートリーグを代表して、ご関係の皆様に厚く御礼申し上げます。

平成30年4月吉日

伊藤みろ メディアアートリーグ

Text by Miro Ito /Media Art League. Photographs: JCII Collection. All Rights Reserved

 

※関連リンク:

在シカゴ日本国総領事館広報文化センター (4月25日まで)

http://www.chicago.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/jic_main_j.html

在シカゴ日本国総領事館Facebook

https://www.facebook.com/jic.chicago/

日本文化会館(5月5日から13日まで)

https://japaneseculturecenter.com

【第9回】伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.8「伎楽の夢:大きく ゆっくり 遠くをみる」

2018-01-01

Gigaku Mask (Karua), 17th century (Photo by Miro Ito)

 

2017年は、世界の分断化がさらに進んだ年でした。

世界が一つにならなければ、明るい未来は、私たちを待ってくれません。

差別や敵愾心、憎悪や恐れが引き起こす紛争に次ぐ紛争の中に、平和への夢ははかなくも消え去ってしまいます。

そんな中、私たちひとりひとりが世界の一体性のために貢献できるという意識や理想を鼓舞していかなければなりません。そうした思いから、私は昨年、「ユニバーサリティ」や「ユニバーサリズム」をキーワードに、名門シカゴ大学やデポール大学で、アメリカの学生たちに東大寺の天平彫刻に託された「東西の叡智の道」について語らせていただきました。

「ユニバーサリズム」とは、宗教的な意味では「万人救済」の思想です。広義では、すべてが一つであるという普遍的な理念を元に、お互いの差異を認め合い、尊重し合う理想といえます。

この理念を端的に示しているのが、1400年以上前に日本に伝来した伎楽や舞楽などの、シルクロードの芸能です。聖徳太子が奨励したといわれるのも、伎楽や舞楽の中に、異質な文化が豊かに共存しているからです。まさにアートの中に体現された「和」の心であり、ユニバーサリズムの粋といえるのです。

 

伎楽、舞楽とは

芸能として滅びてしまった伎楽は、ギリシア仮面劇を起源とするユーラシア最古の仮面劇といわれます。552年の仏教伝搬の頃、日本に伝来し、奈良時代以来、仏教行事として法隆寺や東大寺、西大寺、興福寺などで奉納され、仏教の興隆に大きく貢献したといわれます。その表情豊かな見事なフォルムの仮面群は、雄大なシルクロードの東西の交流史を今日に伝えるものです。

一方、海のシルクロード諸国の王朝芸能を集成させた舞楽は、宮中の芸能として、外国からの来賓への祝宴の場や、国家的な祭礼の際に演じられてきました。奈良時代より三方楽所(朝廷・南都・四天王寺)において伝承され、1500年の伝統を今日まで伝えています。

 

伎楽、舞楽が語るもの

一昨年の5月からNY国連本部で始まった世界巡回展「光と希望のみち(Road of Light and Hope)」は、共催者である日本カメラ財団と外務省のご支援を得て、ウズベキスタン芸術アカデミーやストラスブール欧州評議会・欧州の広場、トロント国際交流基金、シカゴ日本広報文化センターで開催してまいりました。東大寺の伎楽面や春日大社の舞楽面は、その魅力あふれるエネルギッシュな造形表現により、感嘆を以って迎えられました。

注目された点は、長く大きな鼻や皺で歪んだ顔、豊かな喜怒哀楽の表情も、それぞれの個性として、誇らしげに最大限に強調された顔だちです。それぞれのキャラクターが違った個性を持っていることにこそ、価値が見出せるのです。そのことで、世界がいかに豊かになっているかということに、仮面を通して、改めて気づかされるのです。

ちなみに胡国と呼ばれた「ゾグド国」は現在のウズベキスタンに当たる地域です。ウズベキスタンでは、4つのテレビ局のインタビュー取材を受け、メディアで広く報じられました。私が答えたのは、以下のポイントです。

ー伎楽がシルクロード伝来の1400年以上前の造形であること。

ー仮面が日本にしか残されていないのは、日本が歴史的に他国の侵略を受けなかったこと。

ー皆が同じであるという一体性の意識を訴求するものであること。

ー多民族や異なる宗教をつなぐ答えが秘められていること。

 

伎楽はまさにシルクロードの縮図であり、世界の縮図なのです。

実際、文明の十字路といわれるウズベキスタンは、まさに人種や民族のクロスロードであり、一人一人の顔立ちが異なる人種の混合で、人種のるつぼの感がありました。アレクサンダー大王の東方遠征にともなったギリシア人入植以来、2300年以上の時をかけて、さまざまな民族が豊かに共存する姿に、伎楽の精神を見る思いがしました。

 

伎楽との出合い

さて、伎楽との出合いは、私自身がNYで遭遇した9.11の翌年の夏でした。シルクロードをテーマにヨーヨー・マがプロデュースした「スミソニアン・フォークロア・フェスティバル」( ワシントンDC)において、伎楽を復元した故・五世野村万之丞(本名:耕介)氏の「楽劇 真伎楽」と邂逅したのです。

その2年後に、野村氏は44歳の若さで逝去し、私はその間、アメリカから帰国する度に撮影していた氏の作品群を、写真集『萬歳楽ー大きく ゆっくり 遠くを見る:野村万之丞作品写真集』( 日本カメラ社)として上梓しました。

その後、平城京遷都1300年を記念して、大仏開眼供養会(752年)で使われた天平時代の伎楽面(重要文化財)を、東大寺から特別の許可を得て、奈良国立博物館のご協力の下、撮らせていただきました。同年には春日大社の重要文化財である舞楽面も撮影させていただきました。

伎楽面や舞楽面を眺めていると、先人たちの思いと出合えます。東西の多彩な神々や民族の王者、仙人や実在の英雄たちが “キャラクター化” された姿は、まさにギリシア的なミニチュア版「パンテオン(万神殿)」さらながら、未来への答えが見えてくる気がいたします。

伎楽も、舞楽も、シルクロード伝来の平和の使節団だったのではないか、そんな思いと出合えるのです。

 

大きく ゆっくり 遠くを見る

新年には、世界の一体性への願いを託し、五世野村万之丞氏の「大きく ゆっくり 遠くを見る」という言葉を改めて思い出しました。五世万之丞氏は、死後に八世万蔵を追贈されましたが、その野村万蔵家の家訓だそうです。

「大きく ゆっくり 遠くを見る」ことで、現在の私たちの立ち位置も変わってくるのではないでしょうか。環境問題にしろ、世界中のさまざまな紛争にしろ、未来と過去を自由に往来できる視座を身につけることで、解決に向けた意識が育まれるはずです。

伎楽面や舞楽面は “時の行者”として、そのことを教えてくれるのです。

そして「大きく ゆっくり 遠くを見る」視座には、世界への答えがあるということも____。

 

2018年正月、平和への魂からの願いをこめて

伊藤みろ メディアアートリーグ代表

(※写真は、正倉院の伎楽面が復元された江戸初期のもので、高松の旧家に所蔵されていたものです。)

(C) Text and Photo by Miro Ito / Media Art League. All Rights Reserved.

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